文章を入れるとAIで3行の要約を数十秒のうちに生成する――こんな機能を試せるデモサイトが8月26日に公開されると、要約結果の投稿がTwitterなどで相次いだ。中には太宰治の「走れメロス」や昔話「桃太郎」、匿名掲示板のコピペ文章などを要約したという報告も飛び交った。
このAIは東京大学・松尾豊研究室発のAIベンチャーELYZA(イライザ/東京都文京区)が開発した「ELYZA DIGEST」だ。デモサイト公開後5日間で約13万人がアクセスし、要約の実行数は14万5000回を超えた。
同社はELYZA DIGESTのデモサイトを8月26日に公開。入力したテキストやニュース記事などのURLを基に、AIが一から要約文を作る「生成型」モデル。文の一部を抜き出す「抽出型」モデルなどと異なり、議事録や会話文など整った文章でなくても精度の高い要約文を生成できるという。
公開後、Twitterなどでは「結論から簡潔に述べていて好感度高い」「(会見での議員の発言を試したら)発言の趣旨を見事に表している」などの反応があった。一方で「赤ずきんちゃんがオオカミに食われた」「繰り返しに少し弱い」「3行では重要な要素を絞りきれないのでは」などうまく要約されない報告もあった。
ELYZA DIGESTでは要約結果の成功・失敗をユーザーが評価できる。約1万7600件の評価のうち、成功が約8500件、失敗が約9000件だった。ELYZAの曽根岡侑也CEOは「人はAIにほぼ100%の精度を望むことが多い。半分近く成功したのは励みになる」と好意的に受け止め「失敗例も読み解くと面白い」と話す。
走れメロスの要約結果では「王が逆ギレし、セリヌンティウスがキルされた」というツイートが9月10日までに約1.7万RTされ話題になった。本来は王の暴君ぶりに激怒した主人公メロスが、王の人質になったセリヌンティウスを救う物語だ。
ITmedia NEWS編集部が青空文庫の「走れメロス」で試すと、王が主人公メロスの友人(セリヌンティウス)を殺した上で激怒したと読める次の結果が出た。
曽根岡CEOは、要約が失敗した原因として王の「三日目に殺してやるのも気味がいい」など乱暴なせりふに注目。ELYZA DIGESTが得意とするニュース記事にはない、小説特有の不確定な要素が混ざった文章や、せりふ内の表現などを重要部分と勘違いした可能性があるという。
もう1つの原因に、要約可能な文章の長さを指摘する。デモ版は約2500字の文章が精度を維持できる限界だという。走れメロスでは物語終盤にセリヌンティウスを救う場面があるため、反映されなかったとみている。
ELYZA DIGESTはニュース記事や議事録など要約ニーズがある文章向けに開発した。約14万件の要約結果からランダムに100件を選んで内容を調べると、記事やブログなどが約60%を占めた。小説や歌詞、ネットのコピペなどは約25%で、予想外に多かったという。
今後は集めた文章と成功・失敗の評価を基に、どんな文章で失敗しやすいか、弱点はどこかなどを分析。アルゴリズムの改善、ジャンル特化、機能の拡充という3つの方法で要約精度の改善を進める。
アルゴリズムの改善では、より大きな学習モデルを使って精度を上げたり、主語の取り違えをなくしたりするすなど、今回判明した課題を解決する。
ジャンルの特化では、対話文や議事録、小説などの領域に特化して要約の精度を上げる方法を探る。機能面では入力できる文字数を現在の2500文字から数万文字に増やしたり、出力する要約文を3行より増やしたりして失敗の削減を目指す。
同社は自然言語処理(NLP)技術を研究。複数の日本企業へのヒアリングで議事録や会話メモなどを要約する作業に苦労していると知り、要約AIの開発を進めた。
ELYZA DIGESTIを公開した理由について曽根岡CEOは「法人向けだけでは多くの人に知ってもらえない」とした上で、「要約が一番(ユーザーに)驚きがあり、手軽に扱えるものだった。これまでNLPは使い物にならないイメージが強かった。すでに人間の能力を超えている分野もあると体験してもらいたい」と説明する。
NLP分野では、2017年までAIの精度は人間の足元に及ばなかったという。18年に米Googleが開発した言語処理モデル「BERT」を皮切りに精度が上がり、19年には英語のテストで人間を超えた。
英語圏ではNLPや文章を扱うAI分野で変革が起きているという。ELYZAは日本語でも変革を実現し、その技術の実用化を目指している。
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