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iPhoneのカメラは何を目指す プロと一般人の差を埋める「シネマティックモード」の真実(5/5 ページ)

» 2021年09月17日 11時56分 公開
[西田宗千佳ITmedia]
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 誤解してほしくないこともある。

 この種の機能は、スマホメーカー、特に演算による映像生成である「コンピュテーショナルフォトグラフィー」を志向する企業なら、どこも思い付いていたはずだ。発想としては写真に機械学習を使ってボケ味を入れる「ポートレートモード」の延長線上にある。性能アップによって、静止画の機能を動画まで広げるのは自然な考え方だし、動画でフォーカスを後から変える、という機能もなかったわけではない。出てくるタイミングが違っただけ、という言い方もできる。

 ただ重要なのは、「これで写真だけでなく、動画の持つ情報が格段に増える」ということだ。

 現在もポートレートモードで撮影した「深度情報のある写真」を使うと、さまざまなことができる。極論すれば3D情報になるということなので、写真のフォーカスを変えるだけでなく、ライティングやレンズ効果変更など、写真加工の幅が広がるわけだ。

 次の画像はiOS用アプリ「Focos」のものだが、このように深度情報を見ながらライティングを変え、写真を加工することが可能になっている。

photo iOS用アプリ「Focos」。ポートレートモードで撮影した深度情報のある写真データで、深度情報自体を生かして「加工」できる

 動画が深度情報を持つということは、こうした可能性が広がり始める、という話なのだ。VRやARなど、3D空間で活用するデータとしても広がりそうだ。映像・画像から3Dデータを作る「フォトグラメトリ」の精度向上などにも活用できるかもしれない。

 写真や動画に深度情報を追加する試みは長く続いてきた。スマホという「高性能なプロセッサ」「複数のカメラ」を持ち、最近はLiDAR(ToFセンサー)などの「空間構造把握用センサー」も搭載する機器は、結果として「写真・動画のフォーマットを変える」ことに成功しつつある。

 もちろん、その情報は完全なものではない。より大きなレンズやセンサーを使い、さらに高性能なコンピュータによる後処理を行った方が精度は上がる。

 とはいえ、日常にこの種のデータがあふれていくことは、確実に世の中を変えていくきっかけになるだろう。

 「カメラしか進化しない」といわれるが、カメラを軸にしたスマホの激しい競争が続いていることで、普通のカメラだけでは生まれない新しい価値が登場しているのだ。

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