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不便で仕方ない「住所入力の全角・半角問題」はなぜなくならないのか 専門家に原因を聞く

» 2021年11月05日 11時45分 公開
[吉川大貴ITmedia]

 ECサイトやSaaSのアカウントを作るため、入力フォームに全角で住所を打ち込み。番地や郵便番号などの数字は半角で書き、情報を登録しようとしたら「この情報は半角では入力できません。全角で入力してください」。よく見るとページ内に「番地は全角で入力してください」という注意書きがあったので、再度打ち直し──入力フォームを使ったことがある人なら、多くの人がこんな面倒な経験を味わっているのではないだろうか。

 こういった仕様は巷(ちまた)にあふれており、ネットで「全角・半角問題」などと呼ばれている。ユーザーに不便を強いているにもかかわらず、このような入力フォームはなぜなくならないのか。

photo InputManJSの概要

 この課題のソリューションとして、ユーザーが入力フォームに打ち込んだ文を自動で半角・全角に統一するなどの機能を持つJavaScriptライブラリ「InputManJS」を提供するグレープシティ(仙台市)の若生尚徳さん(ツール事業部製品企画部 プロダクトマネジメントチーム)に見解を聞いた。

「古いシステムの仕様が慣習化」がそもそもの発端?

 そもそも、全角・半角両方での入力に対応せず、番地だけは全角で書かせる入力フォームが多いのはなぜなのか。若生さんによれば、これは住所のみ漢字や数字などさまざまな文字が混在する可能性が高いためという。

 「郵便番号や電話番号は数字で表現できるため半角にできるが、住所は漢字、数字、平仮名、片仮名が混じる。半角と全角を組み合わせたデータを処理・保存したくないため、住所は全角で入力させるのではないか」

 ただし銀行系のシステムなど、半角に統一している入力フォームもある。これは、昔の銀行系のシステムでは2バイトの全角文字ではなく、1バイトの半角文字を使ってデータ量を節約していた名残で、一部のネット銀行などでは現在もこういった入力フォームを採用しているという。

改善されない原因はシステム開発側の“UX軽視”か

 さまざまな文字が入力される可能性から、住所は全角で入力しなくてはいけない場合もある入力フォーム。しかしInputManJSのようなサービスを利用したり、開発者がWeb側に機能を実装したりすれば、こういった影響を気にせずフォームを作成できるはずだ。にもかかわらず、不便なフォームが多いのはなぜなのか。

 「システムの開発側が(全角・半角問題を)軽く考えているのではないか。本来、入力でユーザーを悩ませてしまうのはUXの観点から良くないこと。しかし常にコスト削減のことを考えている事業者だと『注意書きをしておけば、システム側は特に何もしなくてもいいだろう』とする場合もある」

 若生さんによれば、この傾向は特に業務システムの入力フォームに多いという。

 「BtoCの場合、ユーザーに離脱されると商売にならないので問題意識が高い傾向があるが(そういった懸念のない)社員向け業務システムなどの入力フォームはユーザーに負担を強いる場合が多い」

 別の原因として、古いJISコードの影響も考えられる。若生さんは開発者側のUX軽視以外の理由についてこう分析する。

 「諸説あるが、80年代に使われた『JIS X 0208』という日本語文字の規格がある。この規格では、日本語で使える7000文字程度が全て全角で指定されている。Webシステムは新しいものの、バックエンドのシステムを更新していないようなところだといまだにJIS X 0208の縛りが残っており、結果としてユーザーに負担を強いる形にしているのではないか」

問題意識を持って動く企業も

photo 若生さん

 とはいえ、全角・半角問題が軽視され続けているわけではない。若生さんによれば、最近はSaaS企業などを中心に、全角・半角問題に注目してInputManJSを活用する企業が増えているという。この傾向が続けば、いつかは住所入力に煩わしさを感じなくなる日がくるのかもしれない。

 「人類が入力フォームの前で悩むことがないのが最大の目標。(InputManJSを使うにしろ、開発者が機能を独自に実装するにしろ)『入力を終えると次の入力フォームに移動する』『ハイフンを入力しなくていい』などが実現してくれればとても楽だなと思う」

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