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鉛筆に万年筆のふりをさせる補助具が長く愛される理由 登場から14年が経過した「ミミック」分かりにくいけれど面白いモノたち(3/5 ページ)

» 2021年11月30日 10時04分 公開
[納富廉邦ITmedia]

擬態することをやめた「ミミック・ドロップス」

 そして、2021年秋に登場した、現時点での最新モデルが、「ミミック・ドロップス」と「ミミック・メッセンジャー」。この2つはこれまでのミミックとは製法からして大きく変わった、エポックメイキングなモデルとなった。

 特に「ドロップス」はある意味、革命的なモデルといえる。軸が透明なのだ。つまり、中に入れた鉛筆も補助軸としての機構も丸見えな訳で、もはや擬態していない、見た目から鉛筆補助軸であることを白状しているようなモデルなのだ。

 「アセチロイドには透明なものもありますよ、と聞いて、クリアタイプは出したいと思っていたんです。高級万年筆風というのも好きなんですけど、もう少し軽くてポップなイメージのミミックがあっても良いと思っていたんです」と宇井野氏。

 まずは「自分が欲しい」と試作を始めたのだが、透明なアセチロイドをろくろを使った削り出しの工法では、透明度を保ったままの製品化が難しいことが判明。従来の作り方をやめて、板状にしたアセチロイドを筒状に巻いてパイプを作り、上下は別パーツで埋めるという方法で作ってみると、これが良い出来だった。

photo 従来通りのろくろでの削り出しで試作したドロップス。これはこれで削り跡のラインが味わい深いが、製品にできるかというと、確かに難しい(撮影:信頼文具舗)

 でき上がったミミック・ドロップスは、黄色に染められた透明軸。だからキャップ部分の板バネも、補助軸部分の鉛筆を絞めるパーツも見える。ミミックはこんな構造になっていたのかということが分かるのも興味深いが、中に入れた鉛筆の軸が見えるのがそれ以上に面白い。

 ミミックのデザインの中に、鉛筆自体のデザインが取り込まれているのだ。

 もっと面白いのは、十分に短くなった鉛筆を入れた状態。なんと軸の中が空洞で、しかし文字は書けるのだ。鉛筆補助軸で透明軸だからこそ見ることができる風景。ミミックというよりマジック。高度に発達した科学は魔術と見分けが付かないという言葉があるが、擬態も行き着くところは魔術なのかもしれない。

photo 「ミミック・ドロップス」に、十分に短くなった鉛筆をセットすると、軸の中には何もないのに筆記できる、ちょっと不思議な筆記具になる。写真では、Base Ball Rollerballリフィルを入れている。タネも仕掛けも無いが、かなりインパクトのあるルックス

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