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» 2021年11月30日 10時04分 公開

鉛筆に万年筆のふりをさせる補助具が長く愛される理由 登場から13年が経過した「ミミック」分かりにくいけれど面白いモノたち(1/5 ページ)

ミミックがあらわれてから10数年。さらなる進化は自己否定的なところまできた。

[納富廉邦,ITmedia]

 「ミミック」という筆記具的なツールがある。最初のモデルが発売されたのは2008年なので、濃いめの文具好きや、小物・ガジェット好きにはそれなりに知られている、おそらく世界でも類を見ない製品なのだけど、その正体は鉛筆の補助軸だ。どう見ても高級万年筆だが、キャップを外すと中には鉛筆があるという仕掛けだ。万年筆に擬態している筆記具ということで「ミミック」と命名された。

photo ミミック(撮影:信頼文具舗)

 ドラゴンクエストでお馴じみの、宝箱に偽装するモンスターだったり、巨大ゴキブリが走り回る映画のタイトルだったりで、あまり良いイメージの無い名前だけど、実際に擬態型筆記具なのだから、見事なネーミングと言うべきだろう。

photo 五十音「ミミック・ペンギン」。初代ミミックは白黒のマーブル。万年筆を擬態する鉛筆補助軸なのだが、この柄の万年筆というのは意外に見ない。そのせいか、今でも売れ続けていて大ヒット商品になっている(撮影:信頼文具舗)

 命名したのは、このツールを発想し、開発・販売している銀座五十音の宇井野京子氏。「昭和の万年筆製造を支えたメーカーであるロングプロダクツに勉強のために連れて行っていただいて、そこでろくろを使った万年筆軸の製造の工程を見せてもらったときに、これで補助軸が作れたらすてきだなと思ったのが最初でした。そういう話を少ししていたら、補助軸って構造は簡単ですからと、すぐにサンプルが送られてきたんです」と宇井野氏。サンプルを受け取ってみると、キャップも付けられるのではないかと思い付いて相談してみたのだが、最初は話がうまく通じなかったという。

 「万年筆のキャップのようなねじ切りのタイプではない、スポッと抜くタイプのキャップの構造を全く知らなかった私のオーダーが雑だったんですよ。それで試作を繰り返させてしまって、ようやく板バネの存在を知ったんです。ほんと、素人だったんです」と宇井野氏は笑う。

 そうして、自分のために作ってもらった、まるで万年筆のように見える、キャップ付きの鉛筆補助軸が完成した。

 ろくろを使って作る伝統的な万年筆軸の製造技術を使い、アセチロイドというセルロイド同様に植物由来の昔ながらの素材を使って作る、高級筆記具と同様に材料と手間と技術をかけた鉛筆補助軸。使っていると高級万年筆のように手に馴じみ、鉛筆を使うことが楽しくなるような筆記具になった。

photo この補助軸のためのパーツには既製品を使っていたが、現在はオリジナルのパーツを作っている。シャレだけれど本気の製品なのだ

 量産は難しく、材料の調達や予算の問題もあり、ドカンと売り出すということはできなかった。

 当初は、遊び心が分かる顧客に少しずつ紹介して、出来上がってきたものを販売するというスタイルを取ったため、知る人ぞ知る製品として流通したのだが、世間では文房具ブームが始まっており、すぐに似たようなコンセプトの製品が登場した。

 とはいえ、ちゃんと作るとお金も手間も時間もかかる製品。継続して販売するのは難しく、コピー商品は出ては消え、また出てきては消えを繰り返す。

 キャップ付きの補助軸というアイデアは、単純なだけにコピーもしやすいけれど、だからこそ、ただそれだけでは面白い製品にならない。「ミミック」だけが成功したのは、それを「高級筆記具」として丁寧に製作することが遊び心につながるということを意識していたからだろう。そもそも「高級な鉛筆補助軸」という存在がギャグみたいなものなのだ。それを面白がりつつ、鉛筆を楽しく実用的に使うという製品になっていたからこそ、現在まで続くロングセラーとなったのだろう。

photo かつてたくさん発売されていたセルロイドの万年筆や文房具では定番の、赤白の柄は「ミミック・南天」として発売された(撮影:信頼文具舗)
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