求人募集等で使われてきた「人財」という言葉が、8年ぶりに全面改訂される三省堂国語辞典に初めて収録されることになった。「人材」は人を材料扱いしている、人は財産なりという意味で、「人財」に置き換える企業や経営者が増えてきたという背景がある。
ただ、言葉の意味をよく調べていくと、元になった「人材」とは、「才能のある人、役に立つ人、人物」という意味で、「材」の字に「材料」の意味合いはない。「逸材」や「適材」同様、「材」とは「才能」の意味で使われている。それなら最初から「人才」と書けばよかったのに、とも思うが、それでは「じんさい」と読む人が多かろう。そんな紆余曲折もあって、「材」の字に落ち着いたのかもしれない。
雇用者・労働者双方が「人材」という言葉に違和感を覚えるのは分からなくもない。「人財」と書いたほうが、人を大切にしているイメージになる。「財」の字は、「財産」「宝」という意味があるからだ。
だがこうして調べていくと、私達は「ん?」と気付くわけである。「材」の意味は「才」であり、人の能力を表す。一方の「財」は価値のあるモノを表す。それじゃあ「人財」のほうが、よっぽど人をモノ扱いしてるんじゃ……。
そもそも「人財」という言葉はいつ頃から使われ始めたのか。検索してみると、すでに1968年には「人材」とは別の意味で「人財」を捉えた書籍があったそうである。
これによれば、「人財」は人材をコストと捉えた「人財勘定」という概念を説明するために使われていた。人財勘定とは、社員を終身雇用するとして、それにかかる人件費を固定資産や設備投資と比較し、社員にどれぐらい働いてもらわなければいけないかという考え方だ。要するに社員を資産として損益分岐点や限界利益率を見ていく、ということであろう。こちらの方もやはり、人を才能や成長で見ていくというよりも、一定の能力をリニアに出し続ける設備群のように捉えるニュアンスを感じる。
1960年代にはすでに使われていたとするならば、「人財」という言葉はすでに60年ぐらいの歴史を持つことになる。ネットで「人材 人財 違い」と検索すると、嫌になるほど多くのサイトが一所懸命その違いを教えてくれる。この2つは、表す意味が違う言葉だったのだ。
だがそれが次第に「人材」って書くとアレだから「人財」って書くか……ぐらいの軽いニュアンスで使われ始めたのが、最近の傾向である。語源を無視して字面の良さだけで言葉を使うと、それは「人という字はお互いが支え合って……」的な教訓話にしかならない。
個人的には、「人材」を「人財」と置き換えたくなる経営者の思いを否定するものではない。多くの中小企業は会社を維持するだけでせいいっぱいで、とにかく利益優先で人を動かす経営者も少なくない中、ちゃんと社員の幸せを考えたいという、その気持は尊重したい。
ただ、そうした「社員大事よね」な動きに乗っかるだけの経営者や人材派遣会社が現れることは想像に難くないし、すでに現れているかもしれない。根拠がなく字面だけの幸せ表現はもろく、危うい。
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