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あなたは「人材」? それとも「人財」? 字面で魂は救われるのか小寺信良のIT大作戦(2/3 ページ)

» 2021年12月06日 10時00分 公開
[小寺信良ITmedia]

70年以上続く表記戦争

 こうした字面だけを捉える問題で思い出すのが、「子供・子ども戦争」である。現在でも児童書などでは、子供のことを「子ども」と「供」だけ開く表記が使われる事がある。これは小さい子でも読めるようにとの配慮ではない。子供の「供」の字は「お供」「供え物」の意味があり、差別的であるから使うべきではないという運動が、昭和20年頃に起こった。それがずっとくすぶっている結果である。

 子供の語源は「子」であり、「子」の複数形で「子共(こども)」となるわけだが、次第に「こども」そのものが単数形の形として定着した。現代でも「うちの子は……」というときもあれば、「うちの子供は…」というときもあるが、どちらも単数扱いである。

 「こども」という言葉に漢字が当てられたのは江戸時代ごろというのが通説で、当初は「子供」以外にも「子等」「子共」「児供」などさまざまな表記があったようである。これが「子供」に統一されたのは明治以降とされている。

 要するに「こども」という話し言葉が先にあり、それを書き表す当て字として、「共」ではなく「供」の字が採用されたということだろう。これは筆者の想像だが、確かに「共」は複数形を表すので、単数形を表す言葉に採用するのは都合が悪い。そんなことから、似たような字で人偏が付いて読みもおなじの「供」の字が採用されたのかもしれない。これに関しては、経緯を示す資料がない。

 そこには、子を供えるとか、子にお供をさせるという意図はなく、元々「こども」全体で1ワードだったものを漢字表記にしただけで、ざっくりもう300年から400年ぐらい使われてきている表記だ。にもかかわらず、たった70余年前に起こった根拠のない難癖が、今もなお生き続けている。インターネット教育で著名な先生でもこれを信じており、協議会で「子供は子どもに変えてください」と言い出したときには、さすがに閉口した。

 筆者も教育書を書くが、全て「子供」で表記している。編集者からは「クレームがくると面倒なので子どもに表記を変えてくれないか」という話も来るが、「誤りと戦っていくのが出版の役割なのでは? 一緒に戦ってくれませんか?」とお願いして納得してもらっている。筆者の著書で「子供」表記で出してくれている出版社やメディアは、一緒に戦う道を選んでくれたところだ。

 2013年、当時の下村博文文部科学省大臣が通達で、「子供」表記には差別的意味合いはないとして、以降文科省の公文書では「子供」に統一するなど、ようやく根拠のない難癖を是正する方向へ踏み出した。

photo 1980年発売の「子供バンド」ファーストアルバム

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