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水蒸気を燃料に、水面で動くロボット 海上の掃除や汚染物質の除去などに期待Innovative Tech

» 2021年12月16日 08時00分 公開
[山下裕毅ITmedia]

Innovative Tech:

このコーナーでは、テクノロジーの最新研究を紹介するWebメディア「Seamless」を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。

 米カリフォルニア大学リバーサイド校と米ノートルダム大学の研究チームが開発した「Light-powered soft steam engines for self-adaptive oscillation and biomimetic swimming」は、光で動き、水を燃料とするソフトロボットフィルムだ。太陽光などの光を熱に変換して水を蒸発し、蒸気で振動を生み出し水面を動作する。フィルムに油や汚染物質を除去する層を加え、海上掃除に役立てたいという。

海上の水面で提案ロボットが動作するイメージ図
実験室で近赤外光を当てて水面を泳ぐ様子

 光に反応して曲がるフィルムは先行研究によって作られているが、Neusbotのような調整可能な機械的振動を作り出すことはできていなかった。振動は、ロボットを制御し、好きな場所や時間で機能するための鍵となる。

 研究では、異なる強度の光を照射することで蒸気を作り、振動を生み出す光熱振動子を提案。研究者たちはこの光熱振動子を持つソフトロボットを、アメンボを含む水面を生息の場とする「Neustons」にちなんで「Neusbot」と名付けた。

 ソフトロボットは、ポリマーハイドロゲルとFe3O4/Cuハイブリッドナノロッドで設計した光熱アクチュエータを主要要素とするフィルム3層で構成する。光を照射すると、ナノロッドが発熱し、多孔質ハイドロゲルに含まれる水を蒸発して蒸気を生み出す。局所的な蒸気の発生により気泡を形成し、これがフィルムの熱力学的平衡に規則的な摂動を与え、蒸気機関のように作用する。

局所的に蒸気を生み出すことで駆動する光熱振動子の仕組みやその様子

 光源の角度で方向が制御できるため、太陽光だけではロボットは前進するだけだが、さらに光源を追加することで、泳ぐ場所を操作できる。

 上部にポリイミド(PI)層、下部にポリジメチルシロキサン(PDMS)層を配置。両者は疎水性があるため、連続的に水に漬けても壊れず、どんな荒波がフィルムを押しのけたとしても水面に戻ってくる。ナノマテリアルで作ってているため、高い塩分濃度にもダメージを受けずに耐えられるという。

 現在は、基本的な動作と保護をする3層のみの作りだが、将来的には油を吸収する層や、他の化学物質を吸収する層を加えたバージョンをテストしたいと考えているとしている。

Source and Image Credits: Zhiwei Li, Nosang Vincent Myung, Yadong Yin, “Light-powered soft steam engines for self-adaptive oscillation and biomimetic swimming”, SCIENCE ROBOTICS, 1 Dec 2021, Vol 6, Issue 61, DOI: 10.1126/scirobotics.abi4523



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