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出身地ガチャが生み出すGIGAスクール格差 高校の1人1台端末導入はどうなる?小寺信良のIT大作戦(2/4 ページ)

» 2022年01月19日 11時14分 公開
[小寺信良ITmedia]

高校の現実

 2021年8月の文科省調査によれば、公立高校で令和3年度末までに1人1台端末導入の見込みが100%なのは17府県で、残り30の自治体では、岩手県が90%近くで突出しているのを除けば、50%前後といったところだ。しかも学校が多い東京、千葉、埼玉といった首都圏が軒並み40%以下というのは、なかなか厳しいものがある。

photo 令和3年度公立高校における端末の整備状況見込み

 費用負担については、この時点では設置者(自治体)負担が18、保護者負担が21、検討中が8となっているが、1月11日のNHK報道によれば、公費負担が21、一定程度公費で保護者負担ありが2、全額保護者負担が18という結果になっている。NHK調査は足して47にならないが、残りはまだ検討中ということだろう。

 筆者が住む宮崎県では、県教育委員会が2021年12月に保護者負担という方針を明らかにした。皆さんもお住まいの地域の方針を調べてみてはいかがだろうか。

 しかしこの保護者購入にも、3つのパターンがあるのをご存知だろうか。1つは個人が自由に端末を選び、学校に持ち込むタイプで、BYOD(Bring Your Own Device)型と呼ばれている。筆者の母校では、2020年から一部の科でこのBYOD型を採用している

 BYOD型は、学校に持ち込まれる端末がバラバラなので、使用に関するベーシックな部分は本人または家庭での教育に任される。保護者側にある程度の知識がある場合は、この方法が一番費用対効果が高いように思う。

 例えば筆者が一昨年末に買ったM1搭載MacBook Airを子供に持たせても(自分はちゃっかり新しいのを買う前提)、このスペックならあと3年は十分戦えるだろう。そもそもBYOD型でなければMacは学校に持ち込めないわけで、「家にあるものを持たせる」だけで学習効果が上がるのなら、それに越したことはない。

 2つ目は学校が推奨する複数のものの中から選んで購入する、CYOD(Choose Your Own Device)型だ。一番選択肢が狭いのは、学校が指定する端末を購入するBYAD(Bring Your Assigned Device)である。

 この2つは、いずれも学校指定の機器以外は持ち込めないことになるが、学校としては管理・指導しやすいという面はあるのだろう。とはいえ保護者購入品であるならば、小中学校のように「貸与」ではなく自分のもの、すなわち私物になる。これを学校指定の制服やかばんと同じように、学校はどの程度利用に関与できるのか、あるいはすべきなのか、その線引きは色々難しいように思える。

 高校生になればほとんどスマートフォンは所持するので、環境が整うまではスマートフォンで代替すればいいのではないか、という意見もあるようだ。だがスマートフォンはほとんどが情報を受けとることに特化した端末で、できるのはせいぜいカメラを使った素材収集止まりだ。生産や制作といった「完成品を作ること」に向いているとはいえない。高校生ぐらいになれば、知識を得ることだけが目的ではなく、研究、体系化、発表といった活動が増えてくる。スマートフォン一択では、かえってしなくてもいい苦労をすることになるだろう。

 もう1つ、高校生にPCが必要な理由は、社会で動画制作へのニーズが高まっているからだ。展示会等が次々と中止になり、リアル店舗への客足が下がる中、製品訴求や営業の中心はSNSやeコマースサイトに軸を移している。説明なども紙を見ながらの対面より、動画のほうが分かりやすいという評価も出てきている。動画内製は、多くの企業が抱える課題となりつつある。

 こうした社会のニーズは、教育にも反映されてくる。学校でも、以前ならPowerPointでスライドショーだったものが、動画へとシフトしていくことは十分考えられる。カメラやマイク、照明はスマホがあるので、すでにツールは揃っている。これは「YouTuberになりたい」とは全然違う文脈でのニーズである。

 そう考えると、クラウドさえあればiPadやChromebookでも、という話ではなくなり、高校生以上ではローカルである程度のパワーとストレージを持つPCを持たせるべきである。

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