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時と場所を選ばない空間オーディオ制作は可能か? M1 MacとLogic ProでDolby Atmos作品を作ってみた(4/5 ページ)

» 2022年01月31日 16時18分 公開
[山崎潤一郎ITmedia]

広がり感とダイナミック感を併せ持った音響空間を構築

 Logic Proのプロジェクトを空間オーディオ用に設定すると、マスタートラックに「Dolby Atmos」プラグインが自動的に追加される。このプラグインでは、モニターする際のサラウンドフォーマットを選んだり3D Object Pannerを使って位置決めした音源の定位を視覚的に確認することができる。音源の定位をオートメーション機能で移動すると頭の形をしたグラフィックの周囲を丸いアイコンが動く。まるで浮遊するオーブ(orb)のようだ。

photo マスタートラックに挿入されるDolby Atmosプラグイン。この事例では、デフォルトの10チャンネルのベッドトラックに加え2つのオブジェクトトラックを設定(白い球体)

 このように空間全体を構築するベッドトラックとは別に、特定の位置に定位あるいは、移動させたい音源をオブジェクトトラックとして配置することで、広がり感とダイナミック感を併せ持った音響空間を構築することができる。それがDolby Atmosというわけだ。

 オブジェクトトラックは最大で118個(モノラル)まで配置することができる。ただ、Logic Proのユーザーガイドには、「クリアでまとまりのあるミックスにするためには、数種類の目立たせたいサウンドだけにオブジェクトトラックを使用することをおすすめします」とある。確かに、オブジェクトトラックだらけにして、さまざまな音を配置してしまうと、逆に各音源が空間の中に埋没してしまい効果が薄れてしまう。

Dolby Atmosプラグインで距離をモデリング

 マスタートラックに自動挿入されたDolby Atmosプラグインでは、Binauralから7.1.4チャンネルまで6種類のリスニング環境に合わせたモニタリングが可能。今回は、ヘッドフォンで聴くことに主眼を置いているので「Binaural」を選択した。

photo Binauralを選択すると、耳から音源までの距離を設定できる。ヘッドフォン環境において空間を擬似的にモデリングすることができる

 Binauralを選択した場合のみ、ベッドトラックとオブジェクトトラックの各チャンネルにおいて音源までの距離を「Near」「Mid」「Far」から選ぶことができる。耳からスピーカーまでの距離をヘッドフォン環境において擬似的にモデリングするための機能だと考えるといい。あくまでもヘッドフォン聴取時の機能なので、2.0〜7.1.4を選ぶとメニューがグレーアウトして選択できない。

 試しにBinaural設定でミックスした音源を5.1〜7.1.4チャンネルに切り替えて聴くと、各トラックのバランスがまったく異なって聴こえるのには驚く。左右前後にパンポットした際、レベルの強弱が激しく、サラウンドスピーカーで再生する場合にはここまで大げさに音像を変化させなければ、適切な音場を構築できないのかと気付かされた。

音質を求めるなら96KHz/24bitからのダウンコンバートがベスト

 Logic Proでミックスした空間オーディオコンテンツは、最終的に「ADM BWF」(Audio Definition Model Broadcast Wave Format)に書き出して配信サービスに納品することになる。「ファイル」→「書き出す」と選択し「プロジェクトをADM BWFとして…」を選んで保存するだけなので、実に簡単だ。

photo 「ADM BWF」は、48KHz/24bit品質でマルチチャンネルのWAVトラックとメタデータを内包している

 仮に、Logic Proのプロジェクトが44.1KHz/16bitであっても、Dolby Atmosの規定で、ADM BWFは48KHz/24bitにアップコンバートされて書き出される。逆に、96KHz/24bitのプロジェクトならダウンコンバートされることになる。ただ、Appleでは96KHz/24bitからのダウンコンバートの方が音質的には良い結果が得られるとしている。

 ADM BWFは、マルチチャンネルのWAVファイルに加えDolby Atmos対応のシステムやデバイスでサラウンドミックスを再現するために必要なメタデータを含んでいるので、おのずと容量が大きくなる点は忘れないでおきたい。

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