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「モロさんはスパルタクスだった」──Coinhive裁判がもたらした“抑止力”

» 2022年02月02日 07時00分 公開
[谷井将人ITmedia]

 最高裁で逆転無罪を勝ち取ったCoinhive裁判。平野弁護士はこの裁判を戦い抜いたモロさんを、自身が興じるスマートフォンゲーム「Fate/Grand Order」にも登場する古代ローマの「スパルタクス」に例える。スパルタクスはローマの剣闘士奴隷で、紀元前73年に反乱軍を組織してローマ軍を破り、勢力を拡大した。その結果、ローマの奴隷を取り巻く法令が大きく変化したからだ。

 「モロさんはスパルタクスだった」(平野弁護士)

photo 「モロさんはスパルタクスだった」と語る平野敬弁護士(1月31日、日本ハッカー協会のYouTubeチャンネルより)

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“不正指令罪”は「手っ取り早く件数を稼ぐのにこれ以上無い犯罪類型」

 日本が2011年にサイバー犯罪条約に批准して以降、不正指令電磁的記録に関する罪は取り締まりの強力な武器だったという。被害者がいなくても犯罪に問える上、略式起訴できるため裁判で争う必要が無い。検挙される側も裁判のリスクを考慮して同意する人が大半で、捜査も簡単。

 弁護人も裁判官もあまり詳しくないITの領域で強く突っ込まれることもなく「手っ取り早く件数を稼ぐのにこれ以上無い犯罪類型」(平野弁護士)だという。そのため、別件捜査や乱用の恐れもあった。

photo 不正指令電磁的記録に関する罪には乱用の恐れがあった

 ところが今回、モロさんが“反乱”を起こし、最高裁で無罪を勝ち取ったことで「捜査機関でも本当に不正指令電磁的記録に関する罪なのか、よく検討した上で捜査に着手しないといけないという意識が芽生えたはず」とみる。

 Coinhive裁判以降、2004年のWinny事件を担当した壇俊光弁護士や平野弁護士の下には、不正指令電磁的記録に関する相談は来ていないという。

 「(本件で議論が)前進したというのは確認しておきたいです。一方で、どういう損害だったら不正といえるのかという基準は示されていません。今後これらの点で判例が積み重なって明らかになるものだと思います。(今後は)警察、検察、IT技術者の団体が中心になって本件について議論し、ガイドラインを取りまとめるという方向に発展していってもいいのではないかと思います」(平野弁護士)

ローマに反逆したスパルタクスとモロさんの違う点

 裁判を戦い抜いたモロさんを、平野弁護士はこう評する。「憲法12条には『この憲法が国民に保証する自由及び権利は、国民の不断の努力によってこれを保持しなければならない』とある。モロさんはまさにこの義務を果たしたといえる。ちゃんとローマに反逆できるスパルタクスなんだということを示した」。

 「スパルタクスと違う点があるとすれば、スパルタクスは負けたが、モロさんは勝った」

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