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飲食店向けSaaSなのにコロナ禍でユーザー数1.5倍 パーソルグループが「けがの功名」からつかんだ成長の秘訣(1/2 ページ)

» 2022年02月22日 12時10分 公開
[吉川大貴ITmedia]

 いまだ収束の気配を見せないコロナ禍。時短営業の推奨など、飲食・小売といったビジネスへの影響も長引いている。一方で、苦戦する飲食・小売業界をターゲットにしているにもかかわらず、コロナ禍の中でユーザー数を伸ばしているSaaSがある。パーソルイノベーションが提供している「Sync Up」だ。

 Sync Upは、従業員のシフト管理や人件費の計算を支援するSaaSだ。事業責任者の竹下壮太郎さんによれば、導入社数は2021年から22年の1年間で約80社から約180社まで増加(無料体験を除く)。実際に操作するアルバイトなど、ユーザー数も1.5倍に増えたという。

photo 竹下壮太郎さん

 厳しい状況にある飲食・小売業界向けのビジネスにもかかわらず、Sync Upはなぜ成長できているのか。その背景には、コロナ禍による飲食・小売業界のある変化と、同社の戦略が隠れていた。

コロナ禍で厳密なシフト管理が重要に?

 Sync Upのサービス内容は、アルバイトやパートの希望シフトを集め、それを基にしたシフト表の作成や、作ったシフト表を店舗横断で閲覧・管理ができるというもの。シフト表を基に、発生する見込みの人件費を自動で計算できる機能や、完成したシフトを自動で従業員に送る機能も備える。

photo Sync UPのUI

 PC、スマートフォン、タブレット端末で利用でき、利用料は1店舗当たり月額3000円。22年2月時点では、ミニストップや日本ピザハット、ドトールコーヒーなどが導入している。

 Sync Upがユーザー数を伸ばす背景には、大きく分けて2つの事情があるという。一つは店舗にとってシフト管理の重要性が高まっていることだ。

 竹下さんによれば、これまで飲食・小売事業者は売り上げに対するコストをコントロールするとき、料理や商品などの原価を抑えて対応しており、人件費については厳密に管理しないところが多かったという。

 ところがコロナ禍が発生したことで、緊急事態宣言が突然終了したり、突然まん延防止等重点措置(まん防)が始まったりと、店をどれだけ営業できるかが1週間単位で目まぐるしく変化するようになった。

 これに伴い、来客の増減も激しくなったことから、利益を高めるためには人件費を厳密に管理する必要が出てきた。しかし飲食・小売の場合、紙でシフト表を作り、従業員にはLINEで知らせるといったやり方を採用している店も多い。

 これまでのやり方を続けるのでは、店長などシフトを管理する人の手間が増えるばかり。コロナ禍で人員を減らした結果、いくつもの店舗の店長を兼任する人も増えていることから、ITを活用するなどして効率化を迫られる企業が増えていた。「これがSync Upの利用増につながったのではないか」と竹下さんは分析する。

掛け持ち増加など、アルバイト側の働き方も変化

 もう一つは掛け持ちの増加など、アルバイトやパート側の働き方の変化だ。

 アルバイトやパートにとって、勤め先の営業時間短縮や急な休店は、当初働く予定だったシフトに入れないリスクにつながる。しかし、働かなければ収入が得られないので、お金が必要な人はアルバイトやパートを掛け持ちするなどして対応する。

 一方、店舗にとって掛け持ちのアルバイトやパートが増えることは、自分の店舗のシフトに入ってもらいにくくなることを意味する。いざ店を開いたり、営業時間を元に戻したりして、これまで通りシフトを組もうとしても「もう他の店でシフト入ってるんで」と断られやすくなってしまうわけだ。

 竹下さんによれば、緊急事態宣言が何度も発出されたり終了したりした結果、こういった事態を体験する店舗が増加。対策としてSync Upの利用を検討する店舗も増えたという。

 「営業時間などを元に戻したのにシフトを断られてしまい『接点を保ち続けていればよかった』と後悔した、という声をよく聞く。Sync Upにはシフトが決まったとき、それを自動で従業員のスマホに通知する機能や、シフトに穴があるとき、求人票を作って他店舗を含む社内で公開できる機能を持つ。こういった従業員との接点を保てる機能には需要があり、特にコロナ禍が始まってから利用が増えた」

「今後の見込み成長率」重視が奏功?

 ユーザー増加の背景にはもう一つ、別の理由も隠れている。竹下さんは、同社がNRR(Net Revenue Retention:売り上げ維持率)という指標を重視していることが、利用の拡大に寄与したのではないかと分析する。

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