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乱立する日本の金融決済システムは海外と比べて遅れているのか? そうとも言い切れない事情(3/4 ページ)

» 2022年02月28日 14時00分 公開

各国のCBDC政策と「デジタル人民元」

 冒頭に紹介したカンボジアのBakongはCBDCと呼ばれるサービスだが、これは一般的な電子マネーが「発行主体が民間企業」であるのに対し、CBDCでは「中央銀行が発行するデジタル通貨」という大きな違いがある。

 Suicaなどを例に考えると、Suicaでは“残高”の価値が保証されており、窓口に払い戻しを依頼すれば、その分が現金で戻ってくる。ただしSuicaそのものは民間企業が運営するサービスであり、可能性は低いとしても残高が保証がされないケースがあったり、「そもそもSuicaに対応していない店舗では受け取る義務がない」という特徴がある。

 それに対し、CBDCは中央銀行が発行するデジタル通貨であり、必ず額面の保証がされる。また、扱いとしては現金と同じため、店舗が「支払いでの受け取りを拒否できない」という大きな特徴がある。つまり、現金がそのままデジタル化したものがCBDCだと考えればいいだろう。

 CBDCは受け取りや残高確認のための「(デジタル的な)ウォレット」が必須という課題があるが、実体はデジタルデータなので現金特有の輸送や保管の問題もなく、支払いや送金が容易というメリットがある。究極的には既存の電子マネーと同じ仕組みを提供できるため、これまで頑なに現金利用にこだわってきたユーザー層の取り込みのほか、民間事業者のサービスの一部を代替することが可能だ。

 日本では銀行口座保持者が多く、便利な決済サービスがすでに複数存在しているために想像しづらいが、カンボジアのような国は銀行などの金融口座普及率が低く、「Unbanked(アンバンクト)」と呼ばれる金融サービス未発達地帯であり、国外や都市部での出稼ぎ資金を安全に送金することも難しかったりする。同様なUnbankedな地域でもアフリカや東南アジアでは携帯電話を使った送金や決済サービスが近年多数登場し、活用が進んでいるが、Bakongはカンボジアにおいて同様の仕組みを提供する。最近ではタイの銀行との提携で国際送金も可能になるなど、送金インフラとしての側面を強化しつつある。

 このようにCBDCは国民に金融サービスを行き届かせる効果がある一方で、すでに金融システムがある程度成熟している国では、あえてCBDCを導入するメリットが薄いという側面がある。

 日本を含む先進諸国では中央銀行が末端の銀行業務を行わない「間接金融」が一般的だ。個人や企業は銀行のような金融機関に口座を持ち、支払いや送金指示があった段階で日本銀行内の各銀行の当座口座を介して残高の“付け替え”が行われる。日銀が「銀行の銀行」といわれるゆえんだ。末端の取引を「リテール決済」、日銀などの中央銀行を介して行われる取引を「ホールセル決済」と呼ぶ。

 間接金融にCBDCを持ち込んだ場合、日銀は個々人や組織ごとの口座(アカウント)を持ち、残高の付け替えもまたユーザーからの直接指示で日銀内のCBDC台帳上で処理される。通常の電子マネーであれば銀行や資金移動業者といった中間業者がアカウント管理を行うわけで、この点が大きく異なる。

 利用スタイルとしては、日銀が直接アプリを配布したり、あるいは従来の決済アプリやATMなどに日銀のCBDCアカウントを紐付け、そこから支払いや送金指示を出せるようにする形になるだろう。支払いオプションとして店舗がCBDCを受け付けるケースも増えるはずだ。銀行口座との境が曖昧になるが、利子を得るための貯蓄用口座(Saving)を銀行口座とすれば、決済や送金処理を進めるための当座口座(Checking)が日銀のCBDC口座と考えればいいかもしれない。

間接金融とCBDC(出典:日本銀行)

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