2021年末、タイで新型コロナウイルス感染症が流行した結果、同国が原産地の一つとなっている鶏肉の生産が滞り、クリスマスにかけて鶏肉を使った料理・商品に影響が出た。もちろんコロナ禍自体が私たちに直接的な被害をもたらすものだが、世界各地と経済的に結びついている現代社会では、思わぬ形でその余波が生まれるわけである。
そうした間接的余波の中でも重要なものの一つが、パンデミックが国際的なロジスティクス、すなわち物流に与えるインパクトだ。先ほどの鶏肉の例は、生産拠点そのものがロックダウンなどの影響で稼働が難しくなるというケースだったが、輸送拠点や輸送手段も同様に、新型コロナウイルスの感染状況から大きな影響を受けるという事態が生まれている。
そしてここでも、そうした異常事態を新たなテクノロジーで乗り越えようという動きが生まれている。
パンデミックはさまざまな形で物流網に影響を及ぼす。例えば2021年8月、中国の寧波港(寧波舟山港)で働く港湾作業員が新型コロナウイルスに感染し、直ちに関連区画の閉鎖が行われた。つまりタイでの状況と同じように、物理的に作業ができなくなったわけだ。
問題は寧波港が、世界でも有数の一大物流拠点だったことだ。国土交通省のデータによれば、2020年のコンテナ取扱量ランキングでは、寧波港は世界第3位に位置している。閉鎖したのは同港の一部だったものの、操業停止は1週間以上続き、欧米諸国の年末商戦に向けた商品が出港できない状態となった。
結果、各国の市場に大きな混乱が生まれた。こうした物流拠点の物理的な閉鎖は、これ以外にも世界各地で発生している。
では感染拡大が収まれば状況が改善されるかといえば、話はそう単純ではない。パンデミックが落ち着くというのは、各国が経済活動を再開することを意味する。そうなればさまざまなものに対する需要が急上昇し、物流のキャパシティーを越えてしまう事態が発生する。
現代の国際物流には、あらゆる物品を一定の規格で輸送することを可能にする「コンテナ」の存在が欠かせないが、それにもコロナ禍が影を落としている。パンデミック中にコンテナの生産が滞ったために、コンテナの数量が足りなくなる事態が起きているのだ。
日本の海運会社である関光汽船のWebサイトによれば、2020年の上期のコンテナ生産量は前年同期比40%減となっているそうだ。その結果、コンテナ本体の価格やリース価格の上昇が発生しており、仮に予定通りに輸送ができたとしても想定上のコストがかかる状況となっている。
こうしてコンテナの絶対数の不足、そして前述の港湾施設の閉鎖により、各地の港でコンテナが滞留する事態が発生した。現在そうした状況は改善に向かいつつあるものの、ジェトロ(日本貿易振興機構)が2022年2月に発表したアンケート調査結果によれば、2月上旬時点で約6割の企業が、輸送混乱による「スケジュールの遅れ」「運賃高騰」の影響を受けている。
同調査では、多くの企業が直面する苦境に「『対応の取りようがない』『価格転嫁もできない』状況に置かれている」と結論付けている。問題が解消する時期については、「2023年以降」と回答した企業が27.3%に達したが、それを超える29.2%が「分からない」と答えている。
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