――VRやARのデバイス普及について、どう分析していますか? VRについては、Meta Quest2がゲーム向けからではありますが、かなり広がり始めています。一方、ARはiPhoneの一部で利用されている状況です。Adobeとしては、ここからどのようなデバイスでの利用を想定しているのでしょうか?
コラッツァ: 今のところ、モバイルARの領域がかなり大きいですね。カメラ付きのデバイスは世界に40億台あります。そしてそこからは、現在すでに数十億ドルの収益が上がっているようです。
しかし私たちは、もちろん、将来的には「メガネ」に適応させたいと考えています。そこで、Adobeは「Mercury」と呼ばれるエンジンを開発しました。このエンジンは、ARをスマートフォン上で実現できますが、ヘッドセットもターゲットにしています。
これは非常に軽量なエンジンです。短時間の体験や、没入型環境での電子商取引などに最適です。そのため、Adobe Mercuryにはかなり投資を続けています。
――Mercuryの詳細について、もう少し教えていただけますか?
コラッツァ: Mercuryはデスクトップ・モバイル版の「Adobe Aero」に搭載されているエンジンで、「After Effects」の3Dでも使っています。Adobe社の内部でAdobe Researchと一緒に作り上げた、私たち独自の3Dレンダリングエンジンで、ビジュアライゼーションだけでなく、インタラクティブ性もサポートしています。
――アドビはMetaやマイクロソフトのような、他のメタバースプラットフォームとどのような関係を築きたいのでしょうか? 特別なパートナーシップ契約のような関係が必要になると思いますか? それとも、オープンな関係を維持しようと考えているのでしょうか?
コラッツァ: いい質問ですね。
第一に、私たちはメタバース上でも、オープンなエコシステムを持つ企業が大好きであり、それが理想的なシナリオです。
しかし、同様に、Metaやマイクロソフトとのパートナーシップもあり、彼らは我々のコンテンツを、将来的に彼らのメタバースに導入することを検討しています。まだ具体的には決まっていません。彼らのエコシステムがどの程度オープンかクローズかについて、多くの決断を下さなければならないと思います。
しかしもちろん、私たちは、ユーザーが一度コンテンツを作れば、どのメタバースにでも提供できるようにしたいと考えていますし、事実、そうするつもりです。
――ところで、この「メタバース・フィーバー」をどうみていますか?
コラッツァ: 私はシリコンバレーで15年働いています。だからこのハイプ・サイクルをとてもよく理解していますよ(笑)。
2007年頃、私が最初の会社を設立したときのことです。その年には、354社がバーチャル空間を作ることに出資を受けていました。当時は、バーチャル空間を作らない企業は、輪から外れていたようなものだったんですよ。メタバースでも、同じようなことが起こっていると思います。
そこで多くの誇大広告があったることも確かです。しかし、その周辺に素晴らしい基盤技術が構築され、やがて私たちのデジタル体験を大きく変えることになったんです。
私たちは今も、以前と同じようなことを経験しているんです。
誇大広告もありますが、多くの投資もあります。この投資の一部は、将来の基盤となるものです。
――最後にもう1つ質問させてください。メタバースビジネスの中でも、アセットの制作は重要な要素です。3Dアセットビジネスはどんどん価値を増していきます。そのような動きは、Adobeにどのような影響を与えるでしょうか?
コラッツァ: ここまででご説明したように、私たちがメタバースに貢献する方法の1つは、コンテンツ制作を支援することです。
実はもう一つの側面として、コンテンツ体験の配信があります。それが「Adobe Creative Cloud」であり、「Adobe Experience Cloud」です。
Adobe Experience Cloudの中で、私たちはメタバース体験や没入型体験全般を提供する大きなチャンスを持っています。そして、デジタル体験の配信においても、先ほどご紹介した、Mercury Engineの機能統合に取り組んでいます。
――NFTやWeb3テクノロジーは、このような現象にどう関係するとお考えですか? 私は、3Dアセットを販売する方法論の中でも、NFTは重要な要素になっていくと思います。一方で「あれは誇大広告である」という人もいます。
コラッツァ: ええ、私もそう思います。
これは単なる誇大広告ではなく、アーティストが生計を立て、作品のオリジナリティを基本的に保証するための大きなチャンスでもあるのです。
Adobeは、コンテンツが本物であることを保証する「コンテンツオーセンティシティ・イニシアチブ」の中で、この点に着目しています。ブロックチェーン技術によってメタバースの間で資産を追跡し、その契約が尊重されることを保証することができるようになってきてもいます。
NFTはコンテンツのオリジナリティと所有権を保証するための素晴らしい分散型プロセスで、アーティストがIPを保護し、それで生計を立てる助けになるでしょう。Adobe BehanceではNFTをサポートし、ウォレットからNFTにリンクできるようになりました。
このエコシステムの進化を支援するために、私たちはさらに多くのことを行うつもりです。
「仮想現実で生きる人が増えていく」――アドビCPOが語る、テクノロジー市場の未来予想
Photoshopに“作者証明”機能 メタデータを剥がされても復元可能、NFTマーケットとも連携
「今のメタバース」を生み出した、年間10億台の「ある量産品」
いまさら聞けない「メタバース」 いま仮想空間サービスが注目される“3つの理由”
2021年はなぜ「メタバース」の年となったのか?Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR