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4月1日からの民法改正「18歳成人」で、本人と親が失うもの小寺信良のIT大作戦(2/3 ページ)

» 2022年03月31日 07時00分 公開
[小寺信良ITmedia]

「未成年」とは何か

 民法における成人とは、法的な行為を行なうことができる年齢に達した人をいう。つまり、自分の意志だけでスマホの契約や解約、借金、商売、ヤフオクやメルカリで自分のものを売るといった行為ができる。

photo メルカリでは成人年齢引き下げについての解説ページが用意されている

 逆に未成年者とは、民法上は「制限行為能力者」というカテゴリーの1つに当てはめられる。これは法的な行為が制限された人達のグループのことで、他には精神疾患や認知症、ケガや大病などで意識がないなど、自分で判断ができない成人も含まれる。

 未成年者は単独で法律行為ができないので、法律行為を行なう際には法定代理人の同意が必要となる。法定代理人とは、ほとんどの場合保護者と同じと考えていいだろう。子供のスマホ契約など、多くの契約(法律行為)で保護者の同意書が必要になるのは、そういうことである。

 ただ例外として、未成年者が結婚している場合は、成人と同じで単独で法律行為ができるとされている。それは生活のためにお金を稼ぐ必要があり、いちいち保護者の同意が必要だったら、世帯を運営する経済活動ができないからである。

 これまで民法では、男性は18歳以上、女性は16歳以上なら婚姻できた。そこから20歳までは、このルールの適用を受けたわけである。だが今回の改正で婚姻年齢も変更されている。これは後で詳しく見ていくことにして、とりあえずここでは置いておく。

 一方で未成年者が単独でできる行為も、民法で決められている。

  1. 単に権利を得たり、義務を免れる行為(民法5条1項ただし書)
  2. 目的を定めて処分を許した財産の処分(民法5条3項)
  3. 目的を定めないで処分を許した財産の処分(民法5条3項)
  4. 営業を許された場合の営業行為(民法6条1項)
  5. 法律行為の取消し(民法120条1項)

 1は単純な権利で、例えば叔父さんからお年玉をもらうといった行為は、保護者の同意はいらない。

 2の目的を定めて処分を許された財産とは、処分の目的がはっきりしたお金、例えば保護者が「このお金で美容院に行って髪切ってきなさい」と5000円渡した場合などが相当する。「誰が」許したかといえば、法定代理人(保護者)だ。このお金で実際にその目的通り髪を切ってくると、財産を処分した、となる。

 3の目的を定めないで処分を許した財産とは、平たくいえば子供に小遣いをやった場合である。これは保護者がどう処分(使う事)してもよいと許しているお金なので、単独でできる。

4の「営業を許された場合」は、誰に許されたかというと、法定代理人である。例えば店番を頼まれた中学生、みたいなケースだ。法定代理人の許可をもらってるんだから単独ではないのでは、と思われるかもしれないが、一度許可を受けたら、それが取り消されるまでは営業を継続できる。この場合、許可されたのは「店番だけ」なので、それ以外の営業行為、例えば商品仕入れや店そのものを売っぱらうみたいな行為は単独ではできない。

 5は非常に重要な話で、「取消権者」の規定である。ある意味これが、改正のキーともいえる。

 未成年者が法定代理人(保護者)に無断で行なった法律行為、つまり売買や利用契約などは、取り消せる。これは未成年者本人の申し出でも、保護者の申し出でも、どちらでも取り消せる。

 この取消権は、未成年保護としてかなり強力だ。取消権を行使して法律行為が取り消されると、行為をした時点まで遡ってチャラになるので、原状復帰が求められる。例えば未成年者が保護者の同意なしにバイクを一括購入した場合、販売店はお金を全額返さなければならない一方で、未成年者はバイクを現状のままで返せばそれで足りる。タイヤがすり減っていようがハンドルが曲がっていようが、ありのままで返せばOKなのである。

 一見不公平に見えるが、未成年相手によく年齢確認もせず売りつけた大人のほうが悪い、というわけである。逆にいえばこれがあるから、未成年者相手の商売は慎重にならざるを得ないし、事前に保護者の同意が求められるわけである。

 もちろんこの不利な状況をカバーするために、追認、催告、時効制度等が設けられているが、ここから先を説明すると多方面へ分岐していくので割愛する。1つだけ懸念点をフォローしておくと、未成年者が成年であるとか保護者の許可は得ているなどとウソをついた場合は、取消権は行使できない。

 改正前は未成年者を保護する取消権が20歳未満までは持てたわけだが、今度の改正で18歳未満に短縮される。18歳から大人だねと喜ぶだけでなく、この取消権の保護がなくなるデメリットも、しっかり把握しておきたい。

 なおこの改正は「法の不遡及」、つまり施行日から遡って適用されないので、2022年4月1日より前に18歳および19歳が保護者に無断で行なった契約等は、取消権が行使できる。

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