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4月1日からの民法改正「18歳成人」で、本人と親が失うもの小寺信良のIT大作戦(3/3 ページ)

» 2022年03月31日 07時00分 公開
[小寺信良ITmedia]
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結婚できる年齢も変わる

 前段で後回しにした婚姻についても、今回の改正で大きく変わる。これまで民法では、婚姻ができるようになる年齢を男性は18歳以上、女性は16歳以上としてきた。一方今回の改正では、婚姻可能年齢は男女ともに18歳以上で統一された。男性は変わらないが、女性に対しては年齢引き上げとなる。

 法務省の説明によれば、高校進学率が98%を超えていること、婚姻するには少なくとも18歳程度の社会的・経済的成熟が必要であるということから、今回の引き上げになったとしている。

 これまでの民法では、制限行為能力者である未成年の例外として、未成年者が結婚している場合は、成人と同じで単独で法律行為ができるとされてきた。つまり、結婚している男性の18歳から19歳まで、結婚している女性の16歳から19歳までは、成人とみなされてきたわけである。

 それが今回の改正で、成人年齢と婚姻可能年齢が同じになったことで、婚姻による未成年者の例外はなくなっていくことになる。

 ただ今年4月1日からスパッとなくなるわけではなく、4月1日の時点ですでに16歳と17歳の女性は、引き続き18歳未満でも結婚できる。すでに結婚を予定している人が、この法改正によってあと1年2年は結婚できなくなるという悲劇を避けるためである。つまりあと2年間は引き続き、18歳未満だけど結婚しているから成人と同じ、という女性が存在するということである。

 しかしそれでも、4月2日の誕生日に16歳になる女性で結婚の予定があった人が、あと2年結婚できなくなるのは気の毒である。

離婚に伴う養育費支払いは?

 離婚して子供の親権を得た場合、多くのケースでは相手方から養育費を貰う取り決めをすることが多い。離婚協議書の養育費支払い期限については、「丙、丁…が成人に達するまで…」と書かれているものも多いはずである。

 これは永らく成人年齢が20歳から動かなかったから、1つの目安となっていたわけだが、成人年齢が18歳に引き下げられると、養育費支払い期限も18歳までに短縮されるのだろうか。もしそうなら、現在受給を受けている家庭にとっては大打撃であり、子供の大学や専門学校進学も危うくなってくる。

 ただ「法の不遡及」の原則から考えれば、離婚協議書を作成した段階での成人は20歳なので、それは遡って18歳にはならないと、普通は解釈されるべきであろう。加えて「成人まで」としつつも、実際には大学卒業の22歳ぐらいまで養育費を支払う例もあるだろう。

 ただ、厚生労働省「平成28年度全国ひとり親世帯等調査結果報告」 によると、現在も養育費を受け取っている割合は、母子家庭で24.3%、父子家庭では3.2%しかないのが現実だ。

 2019年に民事執行法が改正され、裁判所が相手方の財産を調査できるようになったことで、以前よりも相手方に対して強制執行による養育費回収がやりやすくなった。とはいえ、そこまでやるかという「人の機微」の問題がある。新しく家庭を持った場合などは、もう関わり合いたくない、あるいは強制執行までかけて養育費を回収するのは気の毒、という気持ちもあるだろう。

 だが相手方が勝手に、「成人年齢が下がったので支払期間が2年減った」と思ってしまうのは、現実問題として避けられない。「18歳成人」の記事は、離婚の養育費などはレアケースだとしているのか、そこまで踏み込んで語らないからだ。

 内閣府男女共同参画局作成の令和3年の資料によれば、日本の離婚件数は2000年以降爆増しており、20万件を下回っていない。

photo 離婚件数は2000年以降20万件を下回らない

 2人で1件なので、離婚当事者は1年に40万人以上いて、親が離婚した未成年の子は毎年20万人ずつ生じている。

photo 親が離婚した未成年の子の数は毎年20万人ずつ追加されている

 筆者も離婚経験者で、8歳の娘を6年間、再婚するまで1人で育てたが、離婚はもはやレアケースではない。したがって養育費の問題も拡大し続けているにも関わらず、多くの記事がタブーであるかのようにこのことに触れないのは、現実を直視していない。

 今後、離婚予備軍の方にお伝えしたいのは、離婚協議書の養育費支払い期限は、子供が○○歳になるまで、あるいは専門学校・大学を卒業するまで、または経済的に自立するまでといった記述に変えていくべきである、ということだ。4月1日以降、「子供が成人するまで」と書いたら、18歳で養育費は打ち切りとなると相手方が思うことは避けられない。

 18歳成人は、本人達にとっても大きな問題だが、親にとってもまた、大きな問題である。子供が成人することはめでたいことではあるが、法律による保護が2年短縮されるデメリットは、本人と保護者、両方がきちんと把握しておく必要がある。

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