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曖昧な「ウェルビーイング」への向き合い方 従業員の“幸福度”を上げる施策の実践方法とは?(1/2 ページ)

» 2022年04月15日 07時30分 公開
[岩崎史絵ITmedia]

 これまで遅々として進まなかった日本企業の働き方改革は、コロナ禍を境目に大きく前進した。例えば広く普及したリモートワークは、満員電車での通勤が不要になる、居住地に関係なく働ける、プライベートの時間が増えるといったメリットが生まれた。こうした変化を働き方改革の柱に掲げていた企業も多い。

 事業を絶やさないために進めた取り組みが実を結び、ニューノーマルな働き方が定着しつつある。企業活動を継続できると分かった今、次に向かう先として従業員の幸福感や健康を重視する試みに注目が集まっている。キーワードは「ウェルビーイング」(Well-being)だ。

 ウェルビーイングは「良い状態」を指す言葉で、心身の健康だけでなく「幸せ」「楽しい」といった「良い感情を持っている」という意味も含む。誰もが健康的に楽しく働ける労働環境を築くことで、従業員のウェルビーイングを維持し高められる。

 ウェルビーイングに焦点を当てた“ウェルビーイング経営”の効果は、従業員の生産性向上や離職率の低下、優秀な人材の採用などだ。市場や顧客からの評価が上がり企業価値を高めたり、活発なコミュニケーションが生まれて新しいアイデアが出たりする効果も期待できる。

 とはいえウェルビーイングは概念的な要素が強いため、曖昧な考え方をどう施策に落とし込めばいいか悩むことがある。どのようにウェルビーイング向上を実現するのか、今回は具体的な実践方法を紹介していく。

特集:「Well-being」実現への道

テレワークやハイブリッドワークなどニューノーマルな働き方が広がっている今、従業員の健康や幸福にも目を向ける企業が登場している。しかし、そうした「ウェルビーイング」を高める取り組みは簡単ではない。本特集では、ウェルビーイング向上につながる施策の在り方を、知識やITツールなど多方面から探る。

社内制度を見直して、新しい考え方に合った組織を作る

 企業でウェルビーイングを向上するために有効な施策の一つが、社内制度や社内ルールの策定や改定だ。従来とは違う考え方の取り組みを行うには、これまでの制度では対応しきれない。

 分かりやすいのは、福利厚生や支援制度の見直しや新規導入だ。家事や子育てを支援するサービスや健康を維持するフィットネスサービスを導入する、通勤手当をテレワーク手当に変える、リフレッシュ休暇を設ける、などを挙げられる。コロナ禍で健康意識が高まったことで登場した、定期的な体調チェックやストレス分析を行うサービスも候補になる。

 ここ2年間で急増しているのが、テレワークやハイブリッドワーク(出社とテレワークを組み合わせたもの)に合わせた制度改革だ。出社を前提とせず、従業員が働く場所や時間を柔軟に選べるよう後押しする。例えばNTTグループは、転勤や単身赴任を廃止してテレワークを原則にする勤務形態への移行を発表した

 ヤフーは、2013年から実施している制限付きのテレワーク制度「どこでもオフィス」を拡充して、居住地制限の撤廃やフレックスタイム制のコアタイム廃止に踏み切った。コロナ禍以前からテレワークに注力していたKDDIウェブコミュニケーションズ(東京都港区)では、場所に縛られない利点を生かして地方採用を積極的に行い、人材確保に成功。社員の1割以上が地方に住んでいる。

社内制度の整備は第1ステップ 制度運用にはITソリューションが必要

 社内制度を整備することで、従業員のウェルビーイングを高められる。しかし「地方で働いていい」「健康は大切なので定期的にチェックする」と決まっても、制度だけでは実行できない。新しい社内制度やルールを実際に運用できるITソリューションが必要になる。

 コロナ禍でテレワークが定着したころを思い出してほしい。政府の「感染症対策のため出社を避けて」という呼び掛けに応えられたのは、「Zoom」「Microsoft Teams」「Google Meet」といったビデオ会議ツールがあったからだ。ウェルビーイングを実現という理想を実現するには、それにふさわしいソリューションがいる。

 例えばテレワークを導入すると、それまでオフィス内に集まっていた従業員が離散するため、ビデオ会議ツールやチャットツールなどの情報共有を支えるツールが必須になる。オフィスのデスクトップPCと同じ作業を自宅でできる高性能PCや、持ち運べるノートPCを用意する必要も出てくる。

 自宅での勤務時間を逐一チェックしたり、健康管理といって毎回体温計や血圧計で測った値を表計算ソフトに記入させたりする手間は無駄だ。余計なストレスになるかもしれない。紙とペンと使った情報共有や人力での各種チェックを全ての従業員が行うのは現実的ではなく、どうしてもテクノロジーの力が必要になってくる。

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