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握力を増強できるバナナみたいな手袋、米MITなどが開発 編物の人工筋肉を空気で膨張Innovative Tech

» 2022年04月18日 07時00分 公開
[山下裕毅ITmedia]

Innovative Tech:

このコーナーでは、テクノロジーの最新研究を紹介するWebメディア「Seamless」を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。

 米MIT CSAILと米Tencent Americaの研究チームが開発した「Digital Fabrication of Pneumatic Actuators with Integrated Sensing by Machine Knitting」は、センシング機能を搭載した織物ベースのソフトな空気圧アクチュエータだ。

 空気を注入し局所的な膨らみによってアクチュエータ全体を曲げることで機能させる。アクチュエータを肘当てに組み込み肘の曲げのサポートや、手袋に組み込み握力増強などが可能だ。

(上)ソフトアクチュエータを組み込んだニット製の握力増強手袋、(下)肘の曲げ伸ばしをサポートするニット製ソフトアクチェータ

 アクチュエータは、空気圧チャンネルとなる市販のシリコンチューブと、シリコンチューブを包み込み、膨らんだアクチュエータの形状を形作るニットカバーの2つのパーツから構成する。ニットカバーは、表と裏の2つの針床を持つV型ベッド編機を使用してチューブ状に織り、シリコンチューブは織ったニットカバーに挿入する。

 シリコンチューブに空気を注入した際にニットカバー全体が膨らむのではなく、局所的に伸縮させる方法でさまざまな動きを作り出す。例えば、ロボットの指を再現する場合、指の外側だけを膨らませることで、内側に曲がる状態を作り出す。

 このように膨らます場所と膨らまさない場所を製作するために、ステッチの密度と種類の2つのパラメータを用いて伸縮性を操作する。

 編み機のニードルの本数を調整する方法で、ハーフゲージやクォーターゲージのニットを製作し、より柔軟で伸縮性の高いニットを作ることができる。

 糸の種類を変えることで機械的な性能にも違いが出せる。特に、アクリル糸の約100倍の伸縮性を持つ弾性糸(ライクラ)を使用すると効果的だ。膨らませたくない箇所はアクリル糸で、膨らませたい箇所は弾性糸で織ることで局所的な伸縮を生成できる。

 アクチェータは通常の糸だけでなく、導電性の糸による圧力センサーと掃引型静電容量センサーも組み込める。センサーを組み込むことで、例えばセンサーに指などで触れたら膨らむといったインタラクティブ性を付加できる。

間隔をあけて3つの圧力センサーと掃引周波数容量センシング用の電極を配置している。全体的にはアクリル糸で編まれているが、膨らむ箇所のみ弾性糸で編まれている

 ソフトアクチュエータの曲げ加工やセンサーの配置をインタラクティブにプログラムし、プレビューできるインタフェースも開発し提供する。これによりユーザーは、コンピュータ上で詳細な設計が行える。

 ソフトアクチェータを用いたアプリケーション例では、肘の関節曲げをサポートする肘当てニットや、物の把持をサポートするニット手袋が紹介される。また複数指のロボットハンドグリッパーも紹介され、どんな物を把持できるかも検証された。さらに、4足歩行ロボットの足に組み込み、実際の歩行にも成功した。

ニット製の空気圧アクチュエータの活用例

Source and Image Credits: Y.Luo, K. Wu, A. Spielberg, M. Foshey, T. Palacios, D. Rus, W. Matusik “Digital Fabrication of Pneumatic Actuators with Integrated Sensing by Machine Knitting” ACM CHI 2022.



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