前回、日本で施工事例が多いPPFメーカーとしてはXPEL、JN-SHIELD、UNI-GLOBE、FLEX SHIELDなどがあるということは前回も触れたが、鷹松では、どこのPPFメーカーのものを使っているのだろうか。
「うちは主にXPELのULTIMATE PLUSを使っています。施工対象車種によってはFLEX SHIELDを使う場合もあります」(鷹松氏)
実際、前述もしているが、筆者の愛車にもそのXPELのULTIMATE PLUSが使用された。
R35 GT-R、とくにnismoモデルのフロントバンパーは形状が複雑で、PPFの貼り付けは、素人目にも大変そうに思える。
ボディーコーティングの場合は、液体のコーティング剤を用いるため、複雑な凹凸面も「液体ならでは」の流動性で「継ぎ目」なく塗布していくことができるが、PPFの場合はフィルムとはいえ固体物なので、どうしても「継ぎ目」や「貼り際」が発生する。
ただ、施工後の愛車をパッと見た感じでは、その継ぎ目がほとんどわからない。よく観察すれは確かに継ぎ目は分かるが、その継ぎ目/貼り際が、うま〜くボディーデザインの面と面の接合部に合わせ込んでカムフラージュできており、そうした“ワザ”にはいちいち感心させられる。ふと思ったのだがこうしたテクニックは「プラモデルの組み立てにおける合わせ目の隠蔽テクニック」に通ずるものを筆者は感じた。
「PPF施工時には、PPFの貼り際をボディー側のエッジ箇所で折り込んで車体内側に隠蔽することで、“貼り際”を極力外界に露出させない工夫は行っています。しかし、ボディーパネルを外して施工するわけではないため、開口部が狭い箇所へのPPFの折り込みには限度があります。洗車の際などは、そうした箇所には、なるべく触れないようにするのがPPFと付き合っていく際のコツになりますね」(鷹松氏)
本連載の前回で、PPF施工の際には、PPFメーカーが提供する、施工対象車種ごとのボディーパネルごとの形状データでカットしたPPFを適用していく……という話をした。
大体、どの程度のサイズのものまでカットできるのだろうか。
「うちで取り扱っているPPFのロールの最大幅で約150cmです。1ロールは何メートルものPPFを巻いてあるものですから全長方向の長さに制限はないです。まあ、その意味では、1辺の長さは150cm以下という制限はありますね」(鷹松氏)
つまり、極端な例でいえば「20cm×400cm」の細長い形状データでは切り出せるが、「200cm×200cm」のような両辺が共に150cmを超えてしまうような形状データは無理ということになる。
ただ、たとえ車幅が2m前後のワイドなスーパーカーのフロントバンパーに適用するPPFパーツであっても、その「2mの長さ」はロール方向に取ればいい。どんなにワイドなスーパーカーであっても、そのバンパーの奥行きが150cmもあることはほぼあり得ない。しかし、逆に、もし、そういう場合があったとしたら、そこのPPFパーツは、複数のPPFパーツに分割して切り出す必要がでてくる。
「どんな車幅の広いクルマであっても1枚のPPFパーツでは両辺が150cmを超えることはほぼありません。ちなみに、切り出されるPPFパーツで最も大きいのはボンネット用のパーツです。ああ、そういえば、車種名は忘れましたが、やたら大きいボンネットのフェラーリを施工したときは、一枚のPPFでは足りず分割せざるを得ませんでしたっけ(笑)。思い返しても、あのフェラーリ以外で、分割が必要になったことはないですね」(鷹松氏)
取材後、筆者が調べた範囲では、切り出せるPPFパーツの最大サイズは、施工店が利用しているカッティングプロッタ(カッティングマシン)の大きさにも依存するようだ。ちなみに、XPELが販売しているULTIMATE PLUSの1ロールの最大サイズは約183cm(72インチ)×約600cm(20フィート)で約19万円(1440ドル)であった。
おそらく鷹松では、幅153cm(60インチ)のロールにまで対応しているということなのだろう。ちなみに、今回の筆者の愛車のGT-R nismo Special Editionに対する施工では、幅不足でPPFパーツが不用意に分割されてしまったところはなかった。
「うちでも約180mの幅広のPPFロールを使ったことはあるのですが、一度、PPFロールの製造段階でついたと思われる“塵”が接着面に付着していたことがあったので、それ以来、うちでは意図的に幅が約150cmの標準ロールを主体で使うようにしています」(鷹松氏)
極端に大きいクルマのユーザーで、このあたり(PPFパーツの分割)について心配な人は、依頼候補のPPF工房に、カッティングマシンのサイズや、最大幅何センチのPPFロールにまで対応できるのかを聞いてみるのもいいかもしれない。
「そうそう。うちでは最近は、ボンネットに関してだけは、PPFメーカー提供の形状データを活用していないんですよ。理由は、PPFをボンネットの裏側に広めに折り込むためです。ボンネットは雨風にさらされる部位ですからね。ボンネット裏側にまでPPFを巻き込んで施工することで接着面を増やせますし、同時に、貼り際を雨風にさらされないボンネットの裏側に持っていけますから。
「ちなみに、うちはボディー自体にカッターを近づけたり、あてるようなことはしていません。ボディーを傷つけてしまったら大変ですから。形状データを用いないで施工するボンネットに関しても、必ずボンネットを開けて行うので、カッターがボディーに近づくことはありませんのでご安心ください」(鷹松氏)
なお、PPFメーカーが提供する形状データでは「ボンネットの形、ほぼそのまま」となっており、貼ったときにボンネット裏に折り込んでいくPPFの量を大きくとれないのだそう。ボンネットに関してだけは、長年の経験で、PPFをボンネットにあてがい、持ち前の経験と技で、鷹松氏が直接PPFを切り出して、貼り付け、折り込んでいくのだという。
他の部位よりは広めの面積を車体内側に折り込んで張り付けられたボンネット部のPPFは、貼り際を完全に隠蔽できて見栄えに貢献する。さらに、その貼り際を水や外気に触れさせる確率を低くできるため、剥がれにくさ(→長寿命)の実現にも貢献するのだ。
PPFメーカーが作成した、その車種用のPPF形状データは、このPPFロールから無駄なく、ボディーパネル単位のPPFパーツを切り出せるように設計されている。それこそ、PPFの1ロールを無駄なく使用するように、隙間(余剰)を最小限にした「ビチビチ・レイアウト」になっているそうだ。
「PPFメーカーが提供しているその車種用の切り出し形状データですが、標準データでは各ボディーパネルのサイズきっちりで切り出すようになっていますが、うちでは3mmほど大きく切り出すようにカスタマイズします。そうすれば、ボンネットの件と同じで、ボディーパネルのエッジへの折り込み量を増やせますからね」(鷹松氏)
同じXPELのPPFを適用しても、仕上がり品質に違いが出るとしたら、そうしたPPF施工者のこだわりや技術(ワザ)によるものなのだろう。
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