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ソニーのエンタメ事業戦略は「クリエイターに近付きたい」

» 2022年05月19日 10時00分 公開
[芹澤隆徳ITmedia]

 「世界中のクリエイターに近いブランドにしたい」──ソニーグループが5月18日に開催した2022年度経営方針説明会の場で、会長兼社長CEOの吉田憲一郎氏はゲームや映画といったエンターテインメント事業においてクリエイター重視の姿勢をアピールした。

ソニーの吉田憲一郎CEO(公式動画より)

 説明の冒頭で吉田氏は「ソニーには6つの事業セグメントがあるが、これとは別に“人”を軸とした3つの事業領域を考えている」とし、ゲーム、音楽、映画というエンターテインメント事業を「人の心を動かす事業」としてくくった。

 これらはクリエイターとともにコンテンツIP(知的財産)を生み出すことに加え、DTC(エンドユーザー向け)サービスで利用者に届ける所までがミッション。例えばゲームなら傘下のスタジオで開発したゲームを「PlayStation Plus」などのネットワークサービスで家庭にあるコンソールに配信する。

 吉田氏によると、ソニーはこの事業領域に対し、過去4年で1兆円を超える戦略投資をしてきたという。特にクリエイターを擁する企業への投資が大きな比重を占め、2021年度はBungieなど複数のゲームデベロッパーを買収した他、2つのドラマ製作スタジオ、インドの音楽レーベルなどを傘下に収めた。

過去4年間の主な投資先

 継続的な投資により、2021年度の連結決算ではゲーム、音楽、映画を合わせた売上高が初めて連結売上高の50%を超え、営業利益も連結全体の約3分の2を占めるまでに成長した。

 22年度の重点戦略でも、各事業の先頭に必ずクリエイターに関する項目を掲げる。ゲームなら「コンテンツIPの創造でクリエイターに近付く」、音楽は「アーティストとソングライターにとって最も近い存在になる」、映画では「クリエイターを支え、コンテンツIPを創出、展開する」といった具合だ。「ソニーを世界中のクリエイターに近いブランドにしたい」という。

 一方のDTCサービスでは「メタバース」が大きなトピックになった。吉田氏は追加出資を決めたEpic Gamesの「フォートナイト」を例に挙げ「ゲームはプレイするだけでなく、時間と空間を共有するソーシャルな場になった。と同時に、ゲームや音楽、映画などが交差し、広がるライブネットワーク空間になる」と指摘。Bungieの買収完了を前提に、2025年度までに10タイトル以上のライブゲームサービスを展開すると明らかにした。

 「ソニーには多様なエンタメコンテンツと長年培ってきたゲーム技術がある。クリエイターとユーザーがつながるライブネットワークスペースを構築したい」(吉田氏)。そしてライブネットワークスペースに入るキーデバイスとして「PS VR2」を紹介した。

クリエイターとユーザーがつながるライブネットワークスペースを作る
「PS VR2」はユーザーの視線をセンシングして視野の中央を高解像度にする技術などを盛り込む。発売日は未定

 質疑応答でクリエイター重視の姿勢について聞かれた吉田氏は「ネットワークの時代にメディアは大きく変化したが、コンテンツはそんなに変わらない。昔はメディアがコンテンツを選ぶ形だったが、今はコンテンツやクリエイターがメディアを選ぶフェーズになった」と話す。同席した十時裕樹副社長兼CFOも「IPとDTCでいえばIP側に投資のウェイトを置く」とした。

 テレビからパッケージ、ネット配信とコンテンツの伝達手段は変化してきたが、優れたコンテンツを作り出す能力の重要性は変わらない。伝達手段はソニーのテクノロジーやM&Aで先導し、クリエイターが生み出したものを世界中に届ける。ソニーのエンタメ戦略において、クリエイターは安定した魅力的な投資先になっている。

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