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「早く対処しなければ『漫画村』のような問題に」──東映、KADOKAWAなど13社が「ファスト映画」制作者に損害賠償請求 損害額は20億円と算定(1/2 ページ)

» 2022年05月19日 17時11分 公開
[吉川大貴ITmedia]

 「早めに対処しなければ『漫画村』のような問題になると危惧し、刑事事件と並行して損害賠償の準備をしていた。『ファスト映画』による搾取は許さない」(後藤健郎理事、社団法人コンテンツ海外流通促進機構)

 映画作品を10分程度にまとめ、許可を得ずに動画投稿サイトで公開する「ファスト映画」の制作者3人に対し損害賠償を求める訴訟を起こすとして、KADOKAWAや東映など13社が5月19日に会見を開いた。会見には、弁護団とともに13社の代理として社団法人コンテンツ海外流通促進機構(CODA)が出席。13社は損害額は20億円と算定し、最低限の損害回復として、このうち5億円の支払いを求めている。

photo 小山紘一弁護士(左)、中島博之弁護士(左中)、後藤健郎理事(右中)、弁護団の前田哲男弁護士(右)

 ファスト映画とは、映画などを権利者の許可を得ず編集し、ナレーションなどをつけて10分程度にまとめて動画投稿サイトで公開した映像のこと。3人は12月に著作権法違反で有罪が確定している。13社は、刑事訴訟で認められた作品以外にも被害を受けた作品があると主張。作品数は54本、投稿先のURLは同作品の重複投稿を含め計64本で、総再生数は計1027万4711回。少なくとも700万円以上の広告収入を得ていた可能性があるとして、東京地方裁判所へ提訴した。

 損害額は13社と協議の上算定した。映像の再生1回で権利者が受け取れる金額を280円程度と仮定。内容が一部削られていることを加味して減額し、1再生当たりの損害を200円と定めたという。「関係者と協議し、現実的に回収可能な額を検討した」(後藤理事)

 弁護団の一人である中島博之弁護士は今回の民事訴訟について、同種の犯罪を抑止する効果を見込んだものと説明。「刑事で有罪判決を受けるだけでなく、今回のように民事で億単位の損害賠償請求を受けるリスクがあると示すことが、犯罪の抑止につながると思う」(中島弁護士)

 抑止が必要な背景については、日本のコンテンツは海外のコンテンツに比べ、権利行使がされにくい現状があるとも指摘。実際、ファスト映画も権利行使がされにくい日本の映画を狙ったものが多いという。

 「日本のコンテンツは権利者が権利行使しないため、不正利用すればローリスクハイリターンで収益が得られるという話を何度も聞いてきた」と、弁護団の一人である小山紘一弁護士は説明する。「今回の民事訴訟によってそういったことはないと示されたのではないか」(同)とした。

「著作権保護の重要性、消費者が意識して」 若い世代に呼び掛け

 CODAや弁護団は今回の刑事事件や民事訴訟について、若い世代が安易な気持ちでファスト映画を視聴していたことも影響したと指摘。消費者一人一人が著作権保護の重要性を意識することが必要だと呼び掛けた。

 ファスト映画を肯定したり、権利元がファスト映画を作成することを求めたりする意見については「YouTubeの場合、仮に1再生0.1円だとすると、1億円稼ぐのに10億再生が必要になる。これでは到底マネタイズできない。まれに公式がダイジェスト版のような動画を出す場合もあるが、これはシリーズ作品の宣伝である場合が多い。何の創作の苦労もしていない人が、権利元の意思に基づかない形で“ただ乗り”していいということではない」(中島弁護士)

 損害賠償請求を受けた3人は2020年初頭から10月下旬にかけ、東宝などが著作権を有する映画5作品を、ファスト映画にして「ポケットシアター」「ポケットシアターJP」といった名前のYouTubeチャンネルにアップロード。広告収益を得ていた。

 事態を受け、宮城県警と塩釜警察署は3人を著作権法違反の疑いで逮捕。2021年11月の公判でそれぞれ有罪と判決された。判決は、主犯格が懲役2年と罰金200万円で執行猶予4年、もう一人が懲役1年6カ月と罰金100万円で執行猶予3年。最後の一人が懲役1年6カ月と罰金50万円で執行猶予3年。

 後藤理事が例に出した漫画村は、2016年から18年まで稼働していた海賊版漫画サイト。CODAの試算によれば被害額は3200億円といい、KADOKAWAや講談社といった出版社が対策に乗り出すなど問題視されていた。

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