西田 「メディアが厳しい」ってよく言われるじゃないですか。でも、潰れる・厳しい、と言われるメディアは、たいてい周囲にいる人間には「ここは厳しいな」って分かってる。
矢崎 そうです。だからわれわれも、周りから見ても、中の人から見ても、誰から見ても唐突だったから大きなニュースになった。
普通はね、なんとなく記事が減っていって、存在を忘れられて、「やめます!」と言ったら「あ、まだあったんだ?」みたくなるじゃないですか(苦笑)。
西田 そうですね。
矢崎 もう記事の数もマックス――。3月はね、クロージング発表以降はちょっと減っちゃいましたけど、発表前までは年々マックスで、一カ月に600……700記事ぐらい出てたのかな。もっと出てたのかな。もうものすごい数出してて。
とにかくイケイケでやってて、急な終幕だった。
私は2017年の1月に編集長を引き継ぐ前、前編集長の鷹木さんに、「今ものすごい投資フェーズにあるから、やりたいようにやれるよ!」と言われて。
ただ、当時の運営元は「AOLプラットフォームズ」だったんだけれども、いろいろ、他の媒体と違うじゃないですか。
GIZMODOもEngadgetもBuzzfeedも、一般の人から見たら「海外系メディア」で、違いが分からないかもしれないけれど、全部違うじゃない?
GIZMODOはもう完全に日本のもので、運営元は国内企業のメディアジーン。日本のBuzzFeedは、BuzzFeed本社と朝日新聞、朝日放送グループホールディングス、バリューコマースの合弁(5月16日発表)。
西田 ブランドとして確かに借りてはいるけれど、メディア運営体制……どこからお金が出ていて、どう人が動いてて、誰が決断するか、という部分だと、例えばGIZMODOは完全に日本で決断されてる。
矢崎 そうなんです。
Engadgetは本当にUSと同じシステムと建付け、同じ親会社の中でやってたから、親会社が「やめる」と言う可能性はあるよ、と。
現に、フランス語版、ドイツ語版とクロージングしてきた経緯があるから、「その危険性だけはあるよね」ということは言われてた。
西田 うんうん。
矢崎 外資だから、良い部分もたくさんある。
良い部分というのは、給与水準が高いこと。それに、本家と連携してること。各国のオフィスも使えるし、編集部も1つの情報を共有できるし、ドメインもすごく強かった。
マイナス面として、カスタマイズがうまくいかなかったりとか、社内システムが全部英語だったりとか、サイトの改修がインド経由だったりとか、ちょっと面倒くさいところもいっぱいある。でも、そのくらい。
いろいろな面を鑑みても、「(急にサービスを停められる)そういった危険性はあるよ」ぐらいに言われてて。
西田 はいはい。
矢崎 そして、親会社がすごく変わったんですよ、この5年間に。
「AOLプラットフォームズ」から「Oath」になって、「Oath」から「ベライゾンメディア」になって、「ベライゾンメディア」から「Boundless(バウンドレス)」になって。
で、このBoundlessというのは、Yahoo!なんですよね。
Yahoo! JapanがYahoo!から、ベライゾンメディアからYahoo!の商標利用権を買い取ったじゃないですか。永久に。もうライセンス料は払わない。
西田 ええ。
矢崎 そのタイミングで、うちの親会社はYahoo!という名前に戻ったんだけれども、日本では「Yahoo!のヤの字も言ってくれるな」ということになって、日本だけ「Boundless」という不思議な社名になって。
ここが運命の分かれ道だったんです。
「Boundless」になってApollo Managementという投資会社が、新しいYahoo!の事業部と利益率を見直した時に、「日本のメディアは必要ない」と判断しちゃったんですよね。
それはもう利益が出てる、出てないじゃなくて、規模の問題ですよね。
鷹木さんに最初に「そういう(いきなりメディアがなくなる)危険性はあるよ」と言われたのに、親会社がころころ変わるたびにのらりくらりと続いてきたから……。
危機感って麻痺するじゃないですか。
西田 麻痺しますね、確かに。
矢崎 だから、今回も別に、続くんだろうとも思わず、普通に。
西田 また社名変わった、と。
矢崎 また社名が変わった、ぐらいにしか考えてなくて。
西田 編集部としての体制を変えてください、と、社名が変わった時とか経営体制が変わった時に言われてるんだったらともかく……。
矢崎 普通は、予算から減らしてくじゃないですか。利益率を上げろ、と言われるとか。
何にもなくて、いきなりカット、というのがね。
で、1 on 1で社長から「クローズします」と言われた5分後にはもう退職のメールが来た。
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