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「iPhoneにサイドローディングさせろ」を国が言うのは妥当か小寺信良のIT大作戦(2/2 ページ)

» 2022年05月24日 07時00分 公開
[小寺信良ITmedia]
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アプリストアレイヤーでの施策

 モバイルOSとアプリストアは強力に紐付けられており、iOSはApp Storeに限定、AndroidはGoogle Play以外のアプリをインストールする場合は設定変更が必要になっている。

 こうした紐付けが、手数料問題も含め市場の支配につながっているとして、特定アプリストア以外からのインストールを許容する、いわゆるサイドローディングを許容する義務を法によって課すことも検討課題となっている。

photo 報告書111ページの該当箇所(マーカーは筆者)

 もともとコンピュータの世界では、アプリケーションはどの提供先からでも入れられるのが普通だった。それが昨今のmacOSにしてもWindowsでも、次第に公式ストア以外から入れづらくなってきている。これはセキュリティ的な懸念から入手先を限定したいという意向と、スマートOSで導入したアプリストアのエコシステムがことのほか大きな利益を生んだからという2面があるように思える。

 コンピュータが完全にアプリストア限定に移行しないのは、もともとコンピュータはAt Your Own Riskで使うマインドがあるところは大きい。またコンピュータはアプリやサービスを開発ためのプラットフォームであり、検証端末でもある。そこは失敗のリスクも含めて、自由である必要がある。

 もちろん全ての人がそうではなく、「何もしてないのに壊れた」案件が後を絶たない。これは、ユーザーレベルがいくつかの層に分かれていることを指している。リスクを取って開発や検証に使う人も、一般職で限られたソフトしか業務でしか使わない人も、OSとしては同じものを使っている。

 一方スマートフォンで、そこまで自由にしていいのかという点は、慎重に考えなければならない。ユーザーのマインドは、明らかに違う。コンピュータの知識がなくても、コンピュータテクノロジーが享受できるのがスマートフォンの立ち位置だからだ。

 そしてそんなユーザーの端末にも、個人情報や決済情報が入れられている。もちろん出荷台数も、コンピュータの20倍ぐらい多い。リスクを取ってでも自由が欲しい人は、コンピュータに比べればグッと少ないはずだ。

 10年ほど前に、iOSに対する「Jail Break(脱獄)」がブームになったことがある。当時は正規版ではできない設定に変更したり、非正規なアプリを動かしたりしたいという欲求が高かったわけだが、今はそれほど話題にならなくなっている。それは、脱獄しなくても十分に満足できる機能がそろったこともあるだろうが、当時とはもはやメインのユーザー層が変わったということも大きいだろう。

 今や企業でも、スマートフォンを業務に使うのは普通になっている。サイドローディング解放によって、「何もしてないのに壊れた」案件がスマホにまで拡大するのを、企業内のサポート担当者はどう思うだろうか。この報告書にある施策は、イコール・フッティングの確保という視点で書かれているが、セキュリティの専門家の意見も聞いてみたいところである。

 政府筋から出てきた報告書としてはかなり骨太な施策が並ぶが、どうもEUで展開されているApple・Google叩きの施策を下敷きに、うちでもいっちょぶったたいて言うこと聞かせるか的なニュアンスも感じるところである。一方でApple・Googleはなにかあるとすぐ日本撤退をちらつかせるが、それはそれでやり方として筋が悪いのでやめるべきだろう。

 とりあえずこの報告書をたたき台に、今のモバイル・エコシステムの課題と解決策を多くの視点から揉んでみるというのは、タイミング的にちょうどいいところだろう。ぜひいろんな方のご意見を聞いてみたいと思う。

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