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iPodは「Goodbye, MD」し、世界を変えて、Goodbyeした小寺信良のIT大作戦(3/4 ページ)

» 2022年05月26日 15時46分 公開
[小寺信良ITmedia]

iPod shuffleのインパクト

 2005年に登場したiPod shuffleは、小型・安価でディスプレイもないというところを逆手に取り、勝手に曲がシャッフルされるというところをウリにした。初代はスティック型だったが、のちに金属製の小型ボディーとなり、クリップでどこにでも付けられる、つまりバッグやポケットに入れないというスタイルに変わっていった。白いイヤフォンだけでなく、本体も外に出すことで、これもまたiPodユーザーである「アイコン」になっていった。

photo 初代iPod shuffle

 プレイリストですらなくランダムに曲が再生されるという偶然の曲順に、多くの人は意味を見出していった。人間の脳は、ランダムの中に特定の法則性を見つけたがる。木の皮や天井のシミに人の顔を見出したりするのと同じように、偶然再生された曲の繋がりになんらかの意味を勝手に見出していく。それが「面白い」とされた。

 従来のアーティスト単位、アルバム単位で再生するという習慣を壊したことで、のちにiTunes Music Storeとして音楽のダウンロード販売をはじめるにあたり、アルバム内の1曲からでも単品で買えるという仕組みに共感を持たせることに成功した。

 もう1つiPod shuffleがもたらしたのは、「ワイヤレスへの布石」である。iPod shuffleとヘッドフォンは有線接続するしかないが、そもそも操作する必要がないので、服に留めたままでよかった。またiPod shuffle自体をヘッドフォンのバンド部分に止めてしまうことで、擬似的なワイヤレス体験ができた。

 のちにヘッドフォン内に楽曲を収録できる製品も出てきたが、それは流行らなかった。やはりiPod としてのアイコンが重要だったのだろう。

補償金制度拡大にブレーキをかけた「iPodからも金を取れ」事件

 2005年4月に行なわれた文化庁 文化審議会著作権分科会 法制問題小委員会の第3回では、権利者団体が連盟で、HDDプレーヤーやPC内蔵のHDDにも録音補償金の対象にすべきとの意見書を提出した。

 これだけなら多くの消費者を巻き込むことはなかっただろうが、ITmediaが「iPodからも金を取れ」というタイトルで記事化したことで、一気に世論が沸騰した。

 これまで補償金といえば、CD-RやDVD-Rに詳しい人だけが、録音用・録画用とされているものには補償金がかかっているのでちょっと高い、ということを知っている程度だった。だが多くの人に愛されているiPodが対象に挙げられたことで、世論に火が付いた格好となった。

 当時の議論でも産業界や学識経験者からは慎重論が出ていたが、世論が大きく反発したことで流れが変わったのは事実である。翌年、当時音楽配信ジャーナリストだった津田大介が個人としてこの小委員会の委員となり、消費者の意見を代弁した。これがのちに、筆者とともにインターネットユーザー協会(MIAU)を設立する流れへとつながっていった。

 さらに録画補償金に関しては、デジタル放送専用レコーダの課金を巡って私的録画補償金管理協会(SARVH)と東芝との間で裁判となり、一審、二審、最高裁まで東芝の全勝という結果となった。多くの消費者が補償金制度に対して疑念を持つきっかけとなったのは、iPodの人気ゆえといっても過言ではないだろう。

 すでに世の中はコンテンツのコピーはおろかダウンロードすらも必要としておらず、補償金制度が成立するシーンはほぼない。だが制度自体は現存するという死文化状態となっており、文化庁がどういうつもりでいまだにこの制度を残しているのか、疑惑が拡がっている。

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