2004年には、ストレージを1インチマイクロドライブに変更した「iPod mini」が登場、同時にカラーバックでシルエットの人物が踊るテレビCMが大量に投下された。キャッチフレーズは、「Goobye, MD」だった。
MDは、カセットテープのデジタル版という位置づけだ。メディアを入れ替えることでアーティストやアルバムを入れ替える。1979年のウォークマン誕生以来、外で音楽を聞く際のこうしたお作法は、ずっと変わらなかった。
一方でiPodは、メディアの入れ替え不要で、手持ちの音楽を全部持って行ける。ただ、パソコンが必須ということで、ユーザー層は明らかにMDとは違っていた。
現在IT業界で生き残っている40〜50代の人達に話を聞くと、MDを使ったことがないという人が多い。これはMDなら友だちと気軽にメディアを交換できて音楽の幅が拡がるとか、ベストセレクションを彼女にプレゼントするといった特性があったからで、要するに今でいうところの「リア充」にしか浸透していなかったからである。
MD使ったことない、あれは大して流行ってなかったと主張するIT・パソコンオジサンを見かけたら、どうかそこは深掘りせず、「ああ……ね?」と哀れむような目で見るのはやめろください。
ただ、MD自体はほとんど日本でしか売れておらず、海外は相変わらずカセットだったり、アメリカ人はデカいCDラジカセを肩に担いで歩いていた。「Goobye MD」というキャッチフレーズが使われたのは、おそらく日本だけだったのではないだろうか。
先にも述べたように、MDユーザーと、すでにパソコンでMP3を扱ってきたユーザー層は明らかに違う。つまりこのままでは、「両立してしまう」のだ。そんな状況でさらなる市場拡大のためには、リア充……MDユーザーを取り込むことが必須だった。ファンキーなCMは、そうした戦略とも合致した。
もう1つ、このCMで蒔いた種がある。白いイヤフォンだ。ソニーはウォークマンの黎明期、社員にわざとウォークマンを通勤時に使わせることで、認知を広めた。同じように街で目立つ白いイヤフォンは、iPodユーザーの象徴だった。
当時他社製MP3プレーヤーに付属のイヤフォンは、一部の良心的なメーカーを除けば、良く言えばうんこで悪くいえばクソだった。どんなに個性的なデザインでも、「イヤフォンは別に買うもの」だった。だがiPod付属イヤフォンは及第点だったため、みんなそのまま使い続けた。
イヤフォンメーカーは、iPod付属の白いイヤフォンを超える音質でなければ存在意義がなくなった。消費者の音楽を聞く手段はヘッドフォン・イヤフォンへ収斂(れん)し、ミニコンポやCDラジカセといった、メディアを直接再生するスピーカー勢の息の根を止めた。こうした圧力が、のちの高級イヤフォンブームの爆発へとつながっていった。
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