ITmedia NEWS > 企業・業界動向 >

iPodは「Goodbye, MD」し、世界を変えて、Goodbyeした小寺信良のIT大作戦(4/4 ページ)

» 2022年05月26日 15時46分 公開
[小寺信良ITmedia]
前のページへ 1|2|3|4       

iPhoneの台頭とiPodの終焉

 Appleは2003年から米国で、iTunes Music Storeという名称で音楽ダウンロード販売を開始した。1曲99セントという低価格で、利便性を以て海賊版と戦うと宣言した。日本では2004年から「着うたフル」のサービスが開始されたが、1曲200円〜400円という価格だった。

 iTunes Music Storeの日本参入は2005年8月で、1曲の価格は150円〜200円に設定された。着うたフルよりは安いが、「1曲99セント」のインパクトには遠く及ばなかった。

 それよりもインパクトが大きかったのは、2007年にDRMフリーへ移行したことだった。価格は多少上がったが、のちに価格が改定されて1曲99セントを維持した。

 そんなタイミングで、初代iPhoneとiPod touchが登場した。パソコン不要で、Wi-Fiを使って直接楽曲をダウンロードできる。まだ3Gの時代なので、モバイル回線を使ってのダウンロードは現実的ではない。初代iPhoneは日本では発売されなかったので、われわれはiPod touchを以て、iPhoneの使い勝手を想像するしかなかった。日本で初めて発売されたのはiPhone 3Gで、2008年のことだった。

photo 日本では発売されなかった初代iPhone

 iPhone 3Gは、扱いがソフトバンクしかなかったことや、当時ガラケーが主力だったこともあり、最初からドーンと火が付いたわけではない。総務省の令和2年「通信利用動向調査」によれば、スマートフォンの所有がおよそ50%に達したのは2012年のことで、iPhone 4SからiPhone 5の頃である。

photo 情報通信機器の世帯保有率の推移(令和2年総務省 通信利用動向調査より)

 のちにiPod Classicと呼ばれることになったオリジナルタイプのiPodは、2009年発売の第6世代を最後に、2014年に販売終了。iPod miniは結局2世代しか出ておらず、2005年発売が最後である。iPod shuffleは比較的長命で、第4世代が2015年までリリースされている。オリジナルのiPodを受け継いだのはiPod nanoで、これも2015年の第7世代まで続いた。

 いわゆる音楽プレーヤーとしてのiPodは、2017年のshuffleとnanoの販売終了をもって終結した。iPod touchは音楽プレーヤーというより、通信できない廉価iPhoneとして、主にゲーム分野で活躍した。

 現代は多くのコンテンツがなんでもできるスマートフォンに巻き取られており、専用機不在の時代といえる。ウォークマンはハイレゾ対応で専門機として特化する道を選んだが、iPodはその道を選ばなかった。AppleはiPodで種を蒔き、iPhoneで全てを刈り取ったわけである。

 今われわれは、AppleといえばiPhoneの会社というイメージを持っているが、振り返れば一介のニッチなコンピュータ屋だった会社が初めて「世界を取った」のは、iPodだった。この成功がなければ、今のApple の飛躍はない。

 AppleにとってiPodは、Macintoshと並ぶ「祖業」だったと言えるかもしれない。

前のページへ 1|2|3|4       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.