このコーナーでは、テクノロジーの最新研究を紹介するWebメディア「Seamless」を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。
米ミシガン大学、韓国のKAIST、韓国のNaver AI LABによる研究チームが開発した「TaleBrush: Sketching Stories with Generative Pretrained Language Models」は、人間(作家)とAI(GPTベースの言語モデル)が小説の物語を共同制作できるツールだ。
作家はフリーハンドで線画グラフをスケッチすると、主人公の変化する運命を時系列レベルで入力できる。これを受け取った言語モデルは、主人公の運勢が可視化された線画グラフと、作家が書いた一部の文章を参照し残りの物語文を生成する。
イーロン・マスク氏が創業した米企業OpenAIは2020年、入力した簡単な言葉から人間が書いたかのような文章を生成する自然言語処理(Natural Language Processing、NLP)モデル「GPT-3」を発表した。キーワードから高精度の文章を生成するため注目を集めた。
しかし、GPT-3は作家が書いたキーワードを入力して残りの物語を自動で出力してくれるが、作家の微妙な意図を詳細にくみ取ってくれるわけではない。例えば、主人公をまず不幸な経験をさせ、その後ハッピーエンドで終わらせたい場合、物語の異なる部分に対して異なるパラメータを指定する必要がある。このようなきめ細かな制御が難しいわけだ。
今回は主人公の人生を作家がある程度コントロールできる、GPT-3を用いた小説作成ツールを提案する。
具体的には、まず作家が主人公の名前を決め、物語の一部を書き、物語の中で主人公の運勢がどう変わるかをスケッチする。スケッチは、スタイラスペンで直感的に一筆書きで描く。スケッチした線のx軸は物語の時系列を示し、y軸は主人公の運勢の良しあしを示す。(高いほど良い)。線の幅は、生成された文の運勢がどの程度変動しうるかを示す。
線画が与えられると、言語モデルは物語文を生成し、その結果をスケッチ上に青い線と点で可視化する。文章と線画グラフは連動しており、一方を編集すると一方も変わる仕組みで、作家は生成された文章を編集したり、線画グラフを修正したりして物語を練ることができる。
また複数の線画グラフを描き、複数の属性(例えば、驚きのレベルだけ別の線画グラフにするなど)の制御もできる。
その他のオプションとして、意外性を指定したり、消しゴムツールを使ってスケッチを部分的に消したりすることも可能だ。線が消された箇所では、言語モデルは制約のない文章を生成する。
TaleBrushの技術的評価を行うため、専門知識が異なる14人の参加者を対象としたユーザー調査を行った。その結果、参加者はこのツールを使用して、主人公の運勢について自分の意図に沿った感動的な物語を見つけるために、繰り返し試行錯誤できると分かった。
Source and Image Credits: John Joon Young Chung, Wooseok Kim, Kang Min Yoo, Hwaran Lee, Eytan Adar, and Minsuk Chang. 2022. TaleBrush: Sketching Stories with Generative Pretrained Language Models. In CHI Conference on Human Factors in Computing Systems (CHI ’22). Association for Computing Machinery, New York, NY, USA, Article 209, 1-19. https://doi.org/10.1145/3491102.3501819
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