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Engadgetってなんだったんだ?  Ittousai氏に聞く、これまでと新媒体TechnoEdgeが指し示す先小寺信良のIT大作戦(2/4 ページ)

» 2022年07月05日 08時00分 公開
[小寺信良ITmedia]

拡大を続けるEngadgetの中で

小寺 Engadgetで人気だったものに、Ittousaiさんの「愛あるソニーいじり」みたいな記事があると思うんですけど。ただEngadgetの後半、だんだんやらなくなってきた。何かいじりの対象が変わってきたんじゃないのかなと思うんですけど。

Ittousai もう当時を検証できないこともあって、独り歩きしてしまうと困るのでまず断っておくと、「ソニーいじり」が特色だったわけでは全くなくて、ソニー好きの読者にとっては理解できるネタだから覚えてるということだと思いますよ。

 それこそAppleやMicrosoftについてもソニーそれ以上にひどい皮肉を書いたり面白がっていじっていたし、好きな会社は無謬と信じるファンをマジギレさせてましたけど、前提となる文脈が分からない人、まず興味がない人には存在しないも同然なので。

 その上でいえば、それこそ昔のソニーは、特に日本では最も愛されるブランドだったし、世界中で使われる規格を生んだことも多々あるけれど、今のApple、Googleほどにはプラットフォームを押さえたことはないわけじゃないですか。彼らは規格を押さえた成功体験もあって、何とかそれをやろうとしては失敗してっていう、すごい辛い歴史があって、それがテクノロジー的、企業と消費者の関係的にはまあ面白かった。キュリオシティだとか、得体の知れないDRMだとか。

 そういう意味では特にソニーいじりという風には捉えてなかったけど、考えてみれば僕らは媒体としてコンシューマー目線やってきて、あんまり会社の偉い人の話を聞いてそのまま立場を代弁してやる、託宣を述べるっていうのをやってないわけですね。技術なり、その会社のやってることを深く理解して伝えることが仕事だけれど、それは必ずしも会社自体のポジションをそのまま代弁したり、その見返りを企業から得てというビジネスではなかったので。

 なので、規格争いなりサービスなりでコンシューマーから見てふざけんなというようなものに関しては、たまに皮肉ではなくマジギレするみたいなのはあった。反消費者的なことはどこでもあるけれど、ソニーは一時期、そういう意味では結構死屍累々だったことがあるわけじゃないですか。そのなかで傍流としてコツコツやってきたPSNとかのレガシーでやっと収益がでて復活という流れにはなったけれども、そうなる前はいろいろと何やってもダメみたいな。もう覚えてる人もいないサービスが出ては、使いやすいものに負けて消えて。

 会社からはすごい勢いで人がいなくなって。まあ、そういう時代は自然とそこに対してツッコミを入れるっていうのはあったと思いますね。なんで会社自体にブランドとして愛憎というよりは、そのやってることに対しての反応というか。

 逆にソニーほど大きくなければ、そういうよくわからんフォーマットだとか、DRMだとか、変な独自形式にこだわって死ぬとかいうこともできないわけじゃないですか。なんでまあ、自然とそういう風になってたんじゃないかなと思います。

小寺 一方でEngadgetの経営としてはどうだったんでしょう? 本家が何度も親会社が変わってますけど。

Ittousai 僕は下っ端もいいところだったんで、経営判断的なものは分かんないですけれども。運営もいろんなところに買収されるのを繰り返して、最初はAOLが買って。編集部みんなで今さらAOLはねえだろってゲラゲラ笑ってたんですよね。いつの時代だ生きてたのかお前、みたいな感じで。

 まあそれが日本だと「AOL オンラインジャパン」になって。それこそ僕もびっくりして。日本にAOLあったんだなって。

 それが結構長く続いて。でもその後「オースジャパン」になって、このあいだ「ベライゾンメディア」になって、そこからまた「Boundless(バウンドレス)」に改名とか、いろいろ繰り返してるんですけど、米国法人に直接雇われてたわけじゃなくて、彼らの子会社である日本法人がやってたと言うべきか。

小寺  運営がどんどんそういうふうに変わっていった中で、メディアとしてどんぐらい続けられるのかな、みたいな不安って、当時ありました?

Ittousai 当時というか、それに関してはずっと、それこそ始めたときから、いつでもなくなる可能性はあるだろうなというのはありました。向こうの編集部直属で、飛ぶ鳥を落とす勢いみたいになった頃は、まあ手厚く守られてはいたけれども。

 日本の会社のものになって独立して採算を見てってなると、収益が出ていても、米国の会社の日本法人だったわけですから、米国から何も言われない完全に独立した存在では最初からなかったわけです。日本の事業を撤退しますとか、メディア部門を売りますとか、いつそういうことあってもおかしくないかな? くらいには思ってはいました。

小寺 外から見ていても、別に経営難という感じには見えなかったので、突然の撤退にみんなも「まさか」って感じで受け止めたところがあるんですけれども。Engadgetって最終的には1日で何本ぐらい記事出してたんですかね?

Ittousai 僕も日々の全部の記事を見るようなことをやめてからもう何年も経っていて全然わかってないですけど、月に700本ぐらいだったらしいですよ。外部ライターにお願いしたりだとか、転載記事とかコラボ的なものだとかも全部含めてだと思いますけど。

小寺 そんなに。じゃあだんだん米国本家の記事にはもう依存しなくなっていったのが、最終形態って感じなんです?

Ittousai それは、本家編集部と密な連携が必要だったりするものと、そうじゃないものがあって。密な連携のものは情報の扱いとかも気をつけて、中の人が向こうと話し合ってやらなきゃいけないと。それは必然的に僕がやることになるんですけど、そればかりじゃなくて日本での取材なり自分の記事もあったので、本数としては減ってたと思いますね。逆に日本に大きな編集部があって記者もいるようになって、国内の取材なりだけでもボリュームは大きかったですし。

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