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発売から11年、進化だけを目指さない「おもいでばこ」の歩み小寺信良のIT大作戦(2/6 ページ)

» 2022年07月20日 08時24分 公開
[小寺信良ITmedia]

初期の「おもいでばこ」

 デジタルカメラが普及し始めたのは、2000年よりちょっと前あたりだったろう。すでに一部の先進的なユーザーは、1990年代中頃からApple「QuickTake」やカシオ「QV-10」を使っていたはずだが、家庭用として普及し始めたのはもう少し後だった。筆者宅に残る一番古いデジタル写真は1999年のもので、富士フイルム「FinePix 2700」で撮影されたものだった。

 2011年に登場した初期のPD-100シリーズは四角く平たい箱で、正面に電源ボタン、USB端子、SDカードスロット、取込ボタンがあった。今に続く基本原型の要素は揃っている。要するにデジカメをUSBにつなぐか、SDカードを入れて取込ボタンを押すと、中身をぜんぶ吸い出してくれるというものである。

photo 「おもいでばこ」初代、PD-100

 当時写真の保存場所は、PCであった。Windows 7全盛時代である。PCは写真を整理するのは得意だが、鑑賞する装置とは言いがたい。もはや「家族全員パソコンの前に集まれー」という時代ではない。PD-100シリーズの背面にはHDMIとアナログRCA端子があり、テレビにつなぐ。写真はテレビで見るというのが、新しかった。

 だがこの頃から、デジタル写真は大きく動き始める。同年10月に発売された「iPhone 4S」からソフトバンクの他にauでも取り扱いが始まり、世界に遅れること数年、ようやく日本でもスマートフォンの時代になっていった。

 PD-100シリーズもスマートフォンからの写真取込には対応していたが、「スマートフォンを使って「おもいでばこ」の中身を見る」という機能がなかった。ネットワークストレージ中身がスマホで見られないというのは、今では考えられないが、当時はそれが普通だった。スマホはインターネットにつながるもので、家庭内LANに入るものではなかったからである。

 「おもいでばこ」の対応は早かった。2013年発売の「PD-100S/W」で、すでにスマホ側からのアクセスに対応している。ただその理由が、われわれが想像していたものとは全然違う。もともとテレビを見ながら操作する製品だが、テレビは子供たちが占領している。じゃあ写真の整理はいつ、何でやるの、と。そうした「ママの声」から、機能の実装が決まった。目線の高さが、「玄人志向」とは全然違う。

 この機能は別の意味で、シニアに爆発的にウケた。2013年といえば、ソニーの初代α7が発売、今に続くフルサイズミラーレスの幕開けである。当時のデジタルカメラは、スマホとワイヤレスで繋がるような機能はない。ではSDカード内のデジタル一眼の写真を、ワシのiPadで見せびらかすにはどうすればいいんじゃ?

 「おもいでばこ」なのである。パソコンが上手く使えないシニアが、パソコンをすっ飛ばしてデジタルカメラとiPhone・iPadをダイレクトにつなぐ、バックアップ付きインタフェースとして機能した。

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