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発売から11年、進化だけを目指さない「おもいでばこ」の歩み小寺信良のIT大作戦(3/6 ページ)

» 2022年07月20日 08時24分 公開
[小寺信良ITmedia]

中期の「おもいでばこ」

 PD-100の時代から、「おもいでばこ」は動画再生もガンガンに行けた。ただ、スマホで縦撮りした動画は、横倒しになってしまっていた。動画の90度回転ができなかったのである。加えて写真のスライドショーの動きはカクカクだった。なぜならば、当時はBlu-rayプレイヤーに使われるプロセッサを搭載していたからである。したがって単純にMP4をデコードするだけなら行けるだが、高解像度画像を貼り付けてのリアルタイムグラフィックス処理に弱かった。

 2015年頃にはBlu-rayプレイヤーの需要が下火になり、プロセッサの入手も難しくなっていった。しかしそれに代わって「中華タブレット」が登場し、グラフィックスに強いSoCが小ロットでも入手できるようになった。タブレットのSoCなら、動画の縦横変換もお手のものである。もともと縦横回転しながら使うものだからだ。

 中期の「おもいでばこ」PD-1000シリーズは、こうした時代の変化の中で生まれた。ボディーが大幅に小型化され、手のひらに乗る台形となった。プロセッサが変われば、中身のソフトウェアは全部書き直しである。UIは、旧来720pベースであったものが、1080pベースに刷新された。ただイメージが変わって旧ユーザーから違和感が出ないよう、慎重に設計された。

photo 「おもいでばこ」と言えばこのイメージ、PD-1000シリーズ

 タブレット用SoCなら、大量の画像をヌルヌルにスクロールすることが可能である。スマホやタブレットのレビューでは、いかに画面がヌルヌルに動くかが1つの評価基準になっている。だが「おもいでばこ」のUIでは、あえてヌルヌル動かさず、わざわざ細かく止まるようにスクロールする。

 これは、高解像度かつ大画面で大量のサムネイル画像がザーッと動くと、映像酔いが起こるからである。スマホやタブレットのような小さい画面では問題にならないが、「テレビで見る」ならではの問題だ。できるけど、安全のためにブレーキを踏む。そういうプロダクトなのである。

 「カメラ」のメインがスマホへシフトする中で、個人が撮影する写真の量は破格に増えていった。動画も撮影するとなれば、当然スマホ本体には入りきれない。クラウドへ同期するも、レイト・マジョリティのユーザーには、コピーと同期の区別が付かない。クラウドにあるからと安心してスマホ側を削除したらクラウド側まで消えてしまったり、アカウントがわからなくなって万単位の写真が一瞬にしてアクセス不能になるといった事故も起こった。

 メールや仕事のデータなんかは、現役を引退したらなくなっても構わない。だが家族の写真は、何十年も保存される。2000年時点で20歳だったとして、80余年生きるなら60年、プラス思い出として子供に渡すところ含めると、ざっくり100年ぐらいだろうか。1つのクラウドサービスが、そこまで続くかどうかはわからない。もしかしたら運営会社を移行しつつ、続くかもしれない。だが100年分の利用料は、一体いくらになるのか。本人亡きあと、アカウントは無事配偶者や子供に引き継いでいけるのか。

 もちろん、「おもいでばこ」のHDDなら安心というわけではない。HDDは必ず劣化するからだ。そこでPD-1000S以降のモデルには、「みまもり合図」という機能が搭載された。HDDの劣化情報をAからFランクで評価する。ランクが下がれば、ユーザーは買い換えを検討できるわけだ。

photo HDDの劣化状態を判定する「みまもり合図」

 さらに「おもいでばこ」は、バッファローのデータ復旧サービスが対応する。開発チームが作った専用データ移行ツールや検査ツールをサービスセンターに提供し、旧「おもいでばこ」 to 新「おもいでばこ」のデータ移行も依頼できる。

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