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過小評価されがちなビジョナリー、ビル・ゲイツの慧眼について話そうか(2/4 ページ)

» 2022年07月22日 07時00分 公開
[本田雅一ITmedia]

理詰めで核心へと迫るゲイツ氏

 ゲイツ氏の凄さは、起業した頃からMicrosoftの退社時はもちろん、現在に至るまでテクノロジーに根ざしたエンジニアとしての立ち位置、思考を変えず、理路整然と結論へと近づいていくところだ。

 私がゲイツ氏を間接的、時に直接的に取材し始めたのはWindows 3.0の時代からだったが、彼が講演で話していることが、のちに業界全体を大きく変えるイノベーションへとつながる入り口だったということは珍しくない。

 その慧眼ぶりは感覚的なものではなく、エンジニアとして技術的な背景をトレースしながら得た結論ばかりという点で、ジョブズ氏とは異なる才能だった。

 ゲイツ氏の”予言”の中でも、もっとも広く知られているのが”Information at your fingertips”や”Digital Wallet”といった言葉だ。これらは、あなたの指先に情報が集まる、あるいは財布はデジタル化され支払い時にポケットから出す必要はなくなる、といった具体的なビジョンを語る際に使ったもので、YouTubeで映像を見ることが可能だ

 ここでタイトルの最後に「2005」とあるように、1994年に当時コンピュータ業界最大のトレードショウだったCOMDEX基調講演で、2005年までに人々の生活をどのように変えてしまうか、どのようなシナリオでその技術が生活を変えていくのかを語った講演だった。

 ちなみにFeliCaを用いたおサイフケータイの開始は2004年、iPhoneの発売は2007年のことである。

 講演を聞けば、単にそうなってほしいという願望、あるいは自社や他社が取り組んでいる技術やプロダクトの断片を組み合わせ、その余白を埋めるのではないことが分かるはずだ。

 一人ひとりにコンピュータが普及し、ネットワークでつながり、より自然なユーザーインタフェイスで操作可能になり、情報は必要なものが自分に向かって集まってくる。そして生活に必要な様々なツールもデジタル化し、ネットワークへと溶け込んでいく。

 単なる想像ではなく、当時起きようとしていたパソコンの普及とそれらがネットワークで接続された世界観を、論理立てて技術的な矛盾なく発展していく世界を考え尽くした先に見えている景色について語っていることが、その言葉から伝わってくる。

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