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過小評価されがちなビジョナリー、ビル・ゲイツの慧眼について話そうか(3/4 ページ)

» 2022年07月22日 07時00分 公開
[本田雅一ITmedia]

“見誤り”を認めるセンスと方向転換の速さ

 あまり昔話ばかりするのもどうかとは思うが、ゲイツ氏の変わり身の速さと、ここぞと見定めた時の修正力の高さに驚かされることも多かった。

 最も大きな転換はMicrosoftが大きく前進したWindows 95のリリース直前のことだ。前年のCOMDEX(10月開催)で2005年のネットワーク化された社会について語っていたゲイツ氏は、それを独自の技術でまとめ上げようとしていた。(後の同名サービスとは別物だがMicrosoft Network。通称:msn)

 Windowsユーザーが相互に接続するネットワークコミュニティを作り、その先に「Information at your fingertips 2005」へと発展するビジョンを描いていたのだ。しかしその核となるWindows 95をリリースする少し前から、パソコン業界ではインターネット革命が始まっていた。

 ここでゲイツ氏は自社開発のOSを中心に、タイトに統合したネットワークサービスで独自コミュニティを形成する方向が誤りであると気づき、Windowsを”インターネットにネイティブ対応したOS”へと変えていく決意をする。

 Windows 95とmsnに関連する戦略を見直し、msnに関してはすでに行っていた投資を全て捨ててしまった。全力を挙げてMicrosoftは自社製品をインターネット環境に適合した製品へと作り直していく。その考えや目標とすべき方向性は、全社員にゲイツ氏本人から電子メールで送られた。

 この見極めの良さは見事という他ない。

 が、さらに驚かされたのは「.NET」(ドットネット)のコンセプトを発表したForum 2000という社内イベントである。このイベントは新技術の発表会でもあったが、一方でMicrosoft自身のビジネスモデルを揺るがすかもしれない、大きな転換点であることを自ら発信していた。

OSとアプリの会社が“将来は全てサービスに”

 その予兆がゲイツ氏から感じられたのは1998年のことだ。

 その年、どのイベントだったかは失念したが、基調講演でゲイツ氏は「XMLは革命的だ。この技術は根本的にソフトウェアの作り方、あり方を変える」と興奮気味に話していたのをよく覚えいてる。

 WebとXMLを用いることで、インターネットの中で様々なサービスが有機的に接続、連動させることが可能になる。大まかに言えば、そのような話だったのだが、当時、インターネットの世界を席巻しようとしていたJavaは、将来的には不要になるのではと、その話を聞いて感じた。

 実際、結果としてJavaが現状、どうなっているかはみなさんご存知の通り(あるいは、もはやJavaの存在を知らない人もいるだろう)だが、ゲイツ氏は当時、そのアイディアが広まり始めたばかりのXMLから着想を広げ「全てのアプリケーションはサービスになっていく」と断言するところまで、システムの全体像を広げていった。

 それがForum 2000で発表された「.NET」のコンセプトだ。その後、この「.NET」は製品名や機能、マーケティングの面で拡大解釈した上で多用されてしまい、オリジナルのコンセプトは薄れてしまったが、ゲイツ氏が発表した元のコンセプトは、その後のIT業界の流れを示唆するものだった。

 ここで流された将来ビジョンでは、これまでソフトウェアを構成していた部品ライブラリはネットワークサービスとしてインターネットに溶け込み、それらサービスを自由に組み合わせてアプリケーションが提供される。

 それらネットワークサービスを自由に構成し、それぞれのサービスが連動してアプリケーションが構成される。Windowsはそれらネットワークサービスを利用し、司るための基本ソフトとなり、パッケージソフトウェアをインストールする必要などなくなるといったものだったと記憶している。

 無論、あれから20年以上が経過し、その時の全てがその通りになっているわけではない。しかしこれらの考え方は、Microsoftのドル箱だったパッケージソフトのビジネスに将来性がないことを示唆していた。現在もMicrosoftが、世界トップクラスの高い収益性を誇る会社であり続けているのは、この時の軌道修正が効いているのだと振り返って感じる。

 クラウドといった言葉はなく、まだGoogleは創業間もないベンチャーだった時のことである。今日、アプリケーションの多くがウェブに溶け込んでいると、あの時に他の誰が断言できていただろう。

自著「The Road Ahead」(1995年発売)での予言について25年後に語るビル・ゲイツ氏

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