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文章を書くことと「ポメラ」という道具の奇妙な関係 その誕生から14年で「文房具」に到達するまで(4/6 ページ)

» 2022年07月31日 07時00分 公開
[納富廉邦ITmedia]

ポメラ最適化ATOK搭載したDM200登場

 デジタルとアナログの融合が試みられる中、長文用マシンとしての完成度を高めた「DM200」が発売され、これがもう、とりあえず、細かい点には不服はあれど、外出時にも長文をしっかり書くという用途に何の不便もない仕上がり。

photo ポメラ最適化ATOKを搭載した「DM200」

 スマホやネットとの連携機能も搭載した上に、ポメラ用にカスタマイズしたATOKを搭載して変換効率を高めるなど、文章を書くための道具に振り切った仕様は、当たり前のように「いろんなところで長い文章を書きたい」層に完全に刺さる製品になった。

 だからこそ、2016年の発売以来、後継機が発売されるまで6年を要していて、しかも、その間、ずっと現役マシンとして使われ続けていたのだ。筆者も、ずっと使っていたし、新製品が出ると聞いたときには、なんだか心配になったくらいだった。

 「DM200」の完成度の高さがあれば、「文章書き」の道具としてのポメラは安泰ではあるのだけど、その分、メモマシンとして、また小型化や折り畳み式キーボードのギミック、ガジェット感などの、製品としての「面白さ」は失われてしまう。

 また、2022年の「DM250」が発売されている現在でも、折り畳み式キーボードあってのポメラだと考えるユーザーは多く、2018年の「DM30」は、そういった声に十分応えられる、とても実験的な製品として登場する。

photo E-Inkを搭載した2018年発売「DM30」

 何より驚いたのは、E-Inkディスプレイの搭載である。E-Inkのディスプレイは、太陽の下でも見やすいとか、バッテリーが長持ちするとか、いろいろなメリットがあるし、筆者も、その未来に期待はしているのだけど、しかし、画面の書き換えに時間がかかるため文字入力にはあまり向かないのだ。

 HUAWEIの「MatePad Paper」のように、速いCPUにより可変リフレッシュレートなどのコントロールを行えば、ストレスなく日本語入力も可能にはなるのだけれど、そうするとバッテリーの持ちは悪くなるし、価格も上がる。そのバランスの中でのE-Inkによる日本語入力は、せっかくのフルキーボードによる高速入力に追従できないのだ。

photo HUAWEI「MatePad Paper」

 正しく「メモマシン」だということも可能かもしれないが、そうなるとフルキーボードである意味がなくなってしまう。ギミックだけの折り畳み式では、「書くツール」としては本末転倒である。

 しかし、そのデメリットを承知で可能性としてのE-Inkに賭けたこと、電池駆動にしたこと、折り畳み式キーボードにこだわりながら、ちゃんと安定性を増したこと、何より「DM200」で達成した完成度をあっさりと捨てたことなど、ガジェットとしての「DM30」が、とても愛おしい製品であるのは間違いない。こういう製品が出るからこそのキングジムである。

 そして2022年、「DM200」から6年を経て登場した「DM250」は、その製品名からも分かるように、「DM200」をベースにした製品であり、その用途もコンセプトもそのまま引き継いで、現代に合わせてチューンアップしたものとして登場した。

 それはそうである。「まとまった文章を手軽にどこででもフルキーボードで書ける道具」としての機能は、もはや行き着くところまでいってしまっているというか、そもそも、文章を書くために必要な機能なんて、そんなに多くはないのだ。

 多くのプロの文章書きがワープロソフトではなくエディタで仕事しているのは、そういうことだし、もともと、ポメラに求められていたのも、単にテキストを棒打ち出来るエディタ専用機なのだ。ただ、冒頭に書いたように、あの時点では、「メモ」というしかなかったし、それでも十分なくらい、周囲の環境が、単にテキストを作るという簡単な作業を「簡単」なことにしてくれなかっただけだ。

 だから、ぐるっと回って、ようやく「面倒なこと抜きで、テキストをだーっと打ち続けたい」という当初の欲望に追いついたのだ。それは、遂にポメラがガジェットから筆記具になったということなのだろう。「DM10」以来のホワイトモデルの発売がそれを裏付けているようにも思う。

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