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「Twitterのネットいじめは日本が2倍」の、もっと先を読む小寺信良のIT大作戦(2/2 ページ)

» 2022年08月21日 05時55分 公開
[小寺信良ITmedia]
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誰が教育するのか

 3つ目のトピックは、「ネットいじめは身近な人から受ける」という話である。知らない人からいじめを受けたのか、知っている人から受けたのかの調査では、インドを除いた全ての国で、知っている人からのいじめであることが明らかになった。

photo 知らない人か、知り合いかによるネットいじめの割合

 こうして見るとインドどんだけディストピアなんだよという気もしてくるが、日本は全体的に数値が低いとは言え、知っている人か知らない人かの差がほとんどないという、珍しいパターンになっている。Twitterでの突出したいじめ割合とも考え合わせると、日本のTwitterでは何かあれば知ってる知らない関係なく襲いかかってくるという、炎上・便乗型いじめが起こっているとも考えられる。

 このレポートの結びとして4つ目のトピックは、「いじめをやっているのは誰か? 自分の子供かも」というテーマで、保護者は子供のネット教育とカウンセリングにもっと積極的になりましょう、という話になっている。

 保護者へのアンケートで、「いじめについて教育している」と回答した保護者は8割に達するが、「継続的に話をしている」という問いについては、芳しい結果にはなっていない。

photo いじめについて継続的に話をしているか

 ここで本来は、「あれ?」と思わなくてはならない。日本は世界的に見ていじめが少ないが、保護者ってそんなに自分の子供にネット教育してるんだっけ? と。

 日本では、子供のネット教育は学校で行なわれている。2020年度から2022年度にかけて順次実施される新学習指導要領でも、情報モラル教育が改定の大きな柱として記述されている。上記LINEの社会貢献事業も、今後の教育実施へ向けて参考にしたいという機運から、学校側で受け入れられやすくなっていったわけだ。

 学校がここまで積極的にネットに関わるようになったのは、わりと最近のことである。筆者が代表理事を務めるインターネットユーザー協会で、学校でのネット教育の重要性を説いていた2008年頃は、「なんで親が勝手に買い与えたケータイの面倒を学校で見なければならないのか」として、文科省から学校へのケータイの持ち込みを禁止するよう「おふれ」を出してくれと泣きつく学校が多かった。また子供にはケータイを持たせないと、条例で決めてしまった自治体まで出てきた。

 だがそれを、「青少年インターネット環境整備法」の制定や業界団体の働きかけなどがあり、「規制より先に教育があるべき」として、10年ぐらいかけてオセロゲームの逆転劇みたいにちょっとずつ、ようやくここまでひっくり返していったのである。筆者らが学校での教育にこだわったのは、家庭にネット教育を任せると、保護者の知識差が大きすぎて教育にならないと考えたからである。

 日本の学校教育は非常に良くできたシステムなので、これをやってくれと言われたらキッチリやってくれる。今回の調査では、その成果がいじめの少なさとして表出したと考えられる。一方世界では保護者に子供のネット教育の責任を負わせているので、保護者のリテラシーや、子供に対する家庭教育のバラツキが、いじめの数に出ているということであろう。

 とはいえ、日本はネットいじめに対して保護者がなにもしなくてよい国になったわけではない。保護者が子供の様子の変化に気がつかなければ、子供は自死を選ぶまでに深刻化しているのもまた、日本のいじめの姿だ。

 日本は他国と条件が違っているというだけで、決して世界のモデルケースになったわけではないという点は、理解しておくべきだろう。

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