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半年で収益計画が破綻したスマホゲーは、なぜ4年以上続けられた? プロデューサーが作り続けた「期待感」CEDEC 2022(2/2 ページ)

» 2022年08月24日 12時30分 公開
[谷井将人ITmedia]
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常に未来への期待を抱ける情報提供

 そんな同作だったが、最終的には4年以上サービスを継続できた。ナカムラさんはユーザーに「推しが活躍できるという期待」「推しに新コンテンツが追加されるという期待」「IPが発展するという期待」を提供し続ける仕組みを確立していた。

 ナカムラさんは、ユーザーに期待感を与える材料の量とゲーム内アイテムの購入者数のデータを見て、期待が大きい時期には購入者数も右肩上がりで増えることを知っていた。常に未来への期待を抱ける状況を作る必要があると考え、調整を続けた。

photo 期待値とアイテム購入者数の関係(数値はイメージ)

 推しが活躍できるという期待を提供するため、「圧倒的に強いキャラを作らない」「キャラの強さをインフレさせない」「特定のキャラを持っていないと楽しめないイベントを作らない」といった調整をしたという。

 推しに新コンテンツが追加されるという期待を提供するためには、「新衣装を毎月追加する」「定例生放送で新衣装とキャラソングを紹介」「Webラジオでは声優を呼んで裏話やボイスドラマを公開」とコンテンツを投入し続けた。常に「次は私の推しに新衣装が来る」という期待を生み出していた。

 天華百剣シリーズが話題になり、認知度が向上するというサイクルを回すためには、キャラソングやWebラジオの他にも、書籍やグッズ、コミックマーケットへの参加、イベント実施、声優ユニットの活動、ショートアニメ放送などの話題作りを続けた。テレビCMや新ストーリーの追加などの金銭的、人的コストが高い施策はできないものの、IPが発展するという期待ができる材料を投入していった。

50万文字のコメントを全て読む

 一方で、期待値のハードルを上げすぎないことも重要だったという。未来に期待できる状況を作り続けるためにもユーザーに「期待していたほどではないな」と思われるのは絶対に避けなければならなかった。

 期待を下回ってしまうとユーザーの中で評価が減点方式になり、最高点が±0点(現状維持)になってしまう。事前に期待値を調整して「想像以上にいい」という印象にできれば評価が加点方式になるという考えだ。

 ユーザーとの認識をすり合わせるため、周年プロデューサーレターで今後の計画などを伝えた後にはアンケートを実施。疑問や勘違いは訂正したり追加説明したりした。ユーザーからのコメントは50万文字を超えることもあったという。

photo ユーザーへのフィードバック

 こうした取り組みの結果、天華百剣 -斬-は4年4カ月もの間サービス提供を続けられた。ナカムラさんは「オフライン版を残せなかったのが心残り」と語るが、ユーザーとのコミュニケーション、期待感の維持、ゲームバランスの調整が、ゲームの寿命を大きく延ばしたプロデュース術の正体だった。

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