とはいえ、今後も電力価格の高騰が続いたり、悪化したりすることがあれば、いま以上に効率的な冷却方法を求められることになる。NTTコムもこの状況を把握しており、以前から実証実験を続けている技術などを商用化し、対策につなげたいという。
同社が実証実験を進めている技術。それは、液体の水や油などをサーバの冷却に用いる取り組みだ。NTTコムでは「リアドア方式」「液浸方式」という2方式の商用化を目指しているという。
リアドア方式は、サーバラックの扉の中に配管を通し、冷却水を循環させることで、排熱を瞬時に冷やす仕組みだ。空気より熱伝導率の高い水が使える他、冷媒とサーバの距離が近いことから冷却性能が高いという。
NTTコムでは2018年ごろからリアドア方式の実験を重ねている。一般的な空調設備の場合、1ラック当たり計8kW、大容量のラックでも計12kWの電力を消費するサーバを収納するのが冷却の限界という。しかし18年に実施した実験では、30kWのラックを冷却することに成功。2020年の実験では、50kWのラックを冷却できたという。
すでに同様の技術を商用サービスに取り入れる競合が出てきていることもあり、NTTコムでも2024年をめどに商用化する方針だ。稼働に問題はないものの、実際の運用やトラブル発生時の対応にはまだ検証すべき点があることから、準備が整い次第サービス化するという。
より効率的な冷却方式は、より高性能なサーバの運用にもつながる。NTTコムはリアドア方式を省電力化だけでなく、昨今利用が増えているGPUサーバなど、高性能ゆえに発熱量も大きい“モンスターマシン”の冷却にも活用したいという。
「既存の冷却方式だと、ラックにサーバを1台か2台置くのが関の山で、複数あると分散設置せざるを得ない例も見られる。分散すると構成の管理やサーバ間の配線も大変になる。高性能なサーバをできるだけ高密度に詰め込んで、ぐるんぐるん回したい需要はここ1〜2年で増えているので、そういったニーズにも対応したい」(内田さん)
もう一方の液浸方式は、電気を通さない油液にサーバを浸した状態で運用する仕組みだ。NTTコムの実験では、100kWのラックを冷却できたという。
ただしリアドア方式とは違い、商用化にはまだ時間が必要という。液浸の場合、既存のサーバをそのまま油液に浸すことはできない。油液からの出し入れを考慮し、コードの差込口などを一面に集中させたり、冷却用のファンを取り外したりする必要がある。
つまり既存のサーバを改造するか、専用のサーバを用意しなければ、液浸方式は使えないわけだ。ラックについても、サーバを出し入れしやすい形状が求められる。それぞれ、サーバベンダーやラックのメーカーと協力が必要なことから「商用化には市場やエコシステムの成熟が必要」(内田さん)と判断している段階という。
NTTコムは一連の施策を「カーボンニュートラル」(温室効果ガスの排出量と吸収量を同量にする考え方)といった環境保全施策にもつなげたいという。NTTグループは2041年3月までにカーボンニュートラルを実現するビジョンを掲げている。NTTコムでも、省電力化などでこのビジョンに貢献する方針だ。
「省電力化に加え、光を電気信号に変化しないことで電力消費量を抑えた通信機器などを作り、データセンターに格納して展開する。さらに再生可能エネルギーなども組み合わせることで、カーボンニュートラルを実現していきたい」(松林さん)
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