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フランスで増える“脱税プール” 国税局が導入した「マルサAI」活躍の裏側ウィズコロナ時代のテクノロジー(2/2 ページ)

» 2022年09月05日 08時00分 公開
[小林啓倫ITmedia]
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AIで2万の「未届プール」発見 航空写真を活用で

 税務関係の諸業務をリモート化するという動きは、日本でも今回のパンデミック以前から見られていた。パンデミック以降は、いわゆる「三密」を避けようという機運が高まったことで、さらに加速している。

 例えば日本の国税局は2020年10月から、企業に対する税務調査において、Web会議システムを通じたリモート面談を実施するようになっている。関連書類をオンラインで受領する取り組みも始めた。21年6月に国税庁が発表した資料によれば、今後はチャットbotによる税務相談の実現や、AIによる「申告漏れの可能性が高い納税者の判定や、滞納者の状況に応じた対応の判別」を進めるという。

 この「AIによる申告漏れの検知」こそ、今回フランスで実現された取り組みとなる。AIを開発したのは、おなじみ米Googleと、コンサルティング会社の仏Capgemini。彼らはDGFIP(仏公共財政総局、日本の国税庁に相当する組織)とともに「Foncier Innovant」というシステムを開発した。

 このシステムではまず、AIが航空写真を分析し、その中に存在する住宅にプール(固定資産税の対象となるもの)が設置されているかどうかを判別する。その結果を税務関係のデータベースと照合することで、申告漏れのプールを把握する仕組みだ。

AIがプールの存在を検知し、データベースと照合(出典:DGFIP

 21年には、このシステムを使用した実証実験を実施。対象となったフランス国内の9つの県合計で、固定資産税の対象となりながら届け出がなかったプールを約2万面も把握したという。これらの「隠れプール」から得られる追加の税収入は、およそ1000万ユーロ(約14億円)に達する見込みとしている。

 DGFIPはこの結果を受けて、今後対象とする地域を9県以外にも広げる方針だ。フランス全土で展開された場合、23年には4000万ユーロ(約56億円)分の税金が追加で徴収できる可能性があるという。またプール以外にも、住宅の資産価値を高めるような施設(テラスやベランダなど)について、AIでの検知に取り組む考えを示している。

 ただしAIによる検知が正確無比かというと、そうでもないようだ。仏ニュースサイトの報道によれば、前述の実証実験の時点ではあるものの、誤検知の確率は実に30%に達していたという。たまたま設置されていたブルーシートをプールと誤認する、などというケースもあったようだ。

 こうした誤検知が人間による再チェックでも発見されず、そのまま追徴課税の通知が行われてしまった結果、抗議が殺到した地域もあったことが報じられている

 当然ながらAIの精度については、システムの改善が継続的に取り組まれているようだ。とはいえ、当面は人間によるチェックが必須になるだろう。改修にかかる費用や、チェックにかかる追加の人件費が、見込まれる税収の増加額と比べて十分に低く抑えられるかどうかがポイントになりそうだ。

 AIを使った脱税チェックについては、他にも「過去にあった脱税の手口をAIに学習させ、調査対象者が提出した関連書類を精査させる」といった手法を、日本の国税庁が検討している。航空写真など画像や映像を分析するAIだけでなく、こうした関連資料を的確に分析できるAIを組み合わせられれば、摘発の精度をさらに向上させることができるだろう。

 1987年に公開されて大ヒットし、88年の日本アカデミー賞で最優秀作品賞を受賞した「マルサの女」という映画があったが(「マルサ」は国税局査察部の通称で、そこに所属する主人公の女性査察官が脱税しようとする人々と戦うというストーリーだった)、近い将来「マルサのAI」が活躍する世界が到来しているかもしれない。

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