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大ウケした「Midjourney」と炎上した「mimic」の大きな違い “イラスト生成AI”はどこに向かう?小寺信良のIT大作戦(1/2 ページ)

» 2022年09月06日 14時00分 公開
[小寺信良ITmedia]

 8月9日に本連載で公開した「AIが描いた絵の著作権は、誰が持つのか Midjourney画像の扱いを考える」というエントリーは、著作権の観点でAI生成画像を扱った記事が少なかったこともあり、当時かなりよく読まれた。ところが最近また別の視点で、読まれるようになっている。AIが学習する画像に対する著作権の位置付けも、この記事の中で扱っていたからである。

 その点だけかいつまんで紹介すると、日本の著作権法では2018年の改正で柔軟な権利制限規定として、AIに学習させるソースとしては著作権が制限される、すなわち権利者の許諾がなくても自由に使える事になっている。

2018年著作権法改定の概要説明資料の一部

 ただ当時の利用イメージとしては、自動運転が念頭にあったのではないかとも思う。つまりインプットとアウトプットが違うものになるという利用だ。まさか画像を学習させて画像を出すような、インプットとアウトプットが同じサービスも想定していたのなら、もう少し深い議論になっただろう。

 Midjourneyはその後も皆面白がって使っているようで、この生成画像を使ったコンテンツも登場し始めている。その後、8月22日に画像生成AI「Stable Diffusion」がオープンソース化された。これを利用するためのプラグインやUIなども次々と公開され、1カ月足らずの間で一躍AI生成画像はブームとなっていった。

 事態が急変したのは、8月29日。クリエイティブAIの開発業務などを手掛けるラディウス・ファイブが、個性が反映されたイラストを作り出せるAIイラストメーカー「mimic(ミミック)」のβ版をリリースした。

イラストのテイストを学習したAIが同じテイストのイラストを自動生成する「mimic」

 このサービスは、クリエイター自身がアップロードした15枚以上のイラストから、その画風を学習し、その画風で独自のイラストを生成してくれるというものだ。プレスリリースには、開発に協力したイラストレーターや漫画家の方々の絵を使った動作サンプルも掲載されている。

 このサービスを巡って、ネットでは悪用の可能性があるのではないかとの指摘が相次いだ。つまり、クリエイターではない第三者が勝手に画像をアップして学習させ、生成された画像を使ってコンテンツを作ったり販売したりする、いわゆる贋作や盗作のツールになるのではないか、という懸念である。

 現実問題として、「AIに食わせる」ところまでは著作権法第三十条の四に例外規定があるので、権利者に無断で行なっても違法ではない。ところがこれには但し書きが付いており、「当該著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない」とある。

 「著作権者の利益を不当に害する」なら従来通り著作権法違反となるわけだが、構造的にはややこしい。生成物を販売する等で「利益を不当に害する」ことになるが、著作権法的に違法になるのはAIに入力した段階、と解釈するしかない。つまり生成物利用で利益は害しても、そこに違法性があるのかないのか、判断できない。まあいずれにしても「行為全体は止められるのでヨシ」とするしかない。

 多くの人が「利益を害する可能性がある」と指摘した事に対し、事業者はその対策が十分ではなかったとして、8月30日にmimicは全機能を停止した。公開してわずか1日のことである。

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