文章や単語で「お題」を入力することで自動的に画像を生成してくれるAI「Midjourney」のクオリティが高いということで、ネットで話題になっている。まだβ版だが、無料と有料のプランがあり、無料プランの場合はCreative Commons 4.0 by-ncライセンスで利用できる。
利用にはチャットアプリDiscordのアカウントが必要になるが、そのあたりの使い方に関してはすでに詳しく指南してくれるサイトがたくさんあるので、そちらを参照していただいたほうが早いだろう。
誰でも簡単にAIに絵を描かせられる一方で、タッチというかトーン、世界観みたいなものはどことなく傾向があるように感じる。今後、画像を見ただけでどのAIが書いたものか、なんとなく見分けられるようになるかもしれない。
今は多くの人がAIに描かせた絵をSNSに投稿して盛り上がっているところだが、今後こうした画像が商業作品に使われていくことになった場合、その著作権は誰が持つのかというのは、気になるところだ。今回はそのあたりを考えてみたい。
CG制作、いわゆる人がモデリングしてマッピングして意図した画像を作成するコンピュータグラフィックス以外の方法でコンピュータに絵を描かせるという試みは、過去研究者だけでなくコンシューマーでも幾度となく行なわれてきた。
筆者は1980年代後半ぐらいからのことからしか知らないが、かつては「マンデルブロ集合」の画像を生成するプログラムが結構あった。ちょうどパソコンのディスプレイが16色、256色からフルカラーへと拡大していくタイミングも手伝って、拡大しても無限に画像が拡がるカラフルでフラクタルな世界に魅せられたものだった。マンデルブロ集合は数式を計算させることで得られるが、多くのプログラムは数式を直接扱うようなものではなく、すでに画像化されたものをUIによって直接扱っていくようなものが多かった。
だいたい同じ時期だったと思われるが、数式処理プログラムである「Mathematica」が登場した。これには数式をグラフィックス化する機能があり、パラメーターを変化させることで、ある程度グラフィックスをコントロールすることができた。ただ基本的にはデータ分析等に使うためのツールなので、意図したようなグラフィックスを描くというものではなかった。
当時こうしたプログラムによって生成された画像は、その著作物性が問われることは少なかった。マンデルブロ集合は誰が見てもすぐにそれとわかるものだったし、Mathematicaの画像は複雑ではあるものの、変わったグラフという認識だった。その画像がCGのマッピングネタとして使われることもあったが、未加工の画像そのものの著作権が問題になった例はあまり記憶にない。
1990年代も半ばを過ぎると、CPUの機能向上に応じて本格的にCGが普及し始め、高機能なソフトウェアが廉価で多数登場した。その中には、マッピング元となるテクスチャを自動生成するサブプログラムが組み込まれたものが多くあった。
例えば木目や大理石模様みたいなものを、パラメーターを変えることで様々なパターンで自動生成してくれるわけだ。これらはビットマップではなく、レンダリング時に再計算されるので、拡大しても画質劣化することがなく、縮小しても端が切れてしまうということがないことから、どこまでの範囲が反映されるかやってみないと分からない反射用のテクスチャ素材としてよく利用された。
当時、マッピングネタとして利用できるフリーライセンスの素材集CD-ROMも、人気があった。職業CG製作者はそうしたものを購入して、ライセンスに注意しながら使用していたものだが、一方でこうした自動生成されたテクスチャは、ライセンスを気にする必要のない自家製の素材であるという認識だった。自分のものとして主張する気はないが、他人のものでもないというバランスである。
いかんせんオジサンなので古い話しかできなくて恐縮だが、MidjourneyのようなAIが描く画像は、過去のこうした自動生成された画像とは一線を画すことを分かってほしかった。例えば幾何学模様や自然の模様のようなものは、人の感情を表わしたものとは言いづらく、日本の著作権法上における著作物に該当するかは難しい。だがAIが描く画像には、そこから連想を引き起こす一種の物語性が感じられる。
例えば以下の画像は、筆者がMidjourneyに描かせた画像であるが、ここから何らかのストーリーを想起させる。しかしこの画像を描かせるに当たって入力した言葉は、「Lake, Old man, Fishing」の3ワードのみである。
この画像は、コンピュータが数式によって描画した模様やパターンとは言いづらく、一種の作品性が認められる。また作品性がある以上、この画像は何かに利用・取り引きされる可能性もあり、画像に対する権利処理がどのようになるのかは、後々問題になる時が来る。
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