このコーナーでは、テクノロジーの最新研究を紹介するWebメディア「Seamless」を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。
オランダのEindhoven University of Technology、台湾大学、米Dartmouth College、カナダのSimon Fraser Universityによる研究チームが開発した「Body-Centric NFC: Body-Centric Interaction with NFC Devices Through Near-Field Enabled Clothing」は、非接触で無線通信が行えるNFC(Near field communication)を使用した衣服型デバイスだ。スマートフォンを服のポケットに入れるだけで、その服の袖や肘の部分などを使って近距離無線通信が行える。
NFCとは近距離において非接触で無線通信が行える技術で、交通系ICカードや電子マネーなどで利用されている。ICチップを搭載したカードをコンビニのNFC機器にタッチして決済したり、スマートフォンに搭載したNFCリーダーでNFC機器と通信したりができる。
タッチするだけで通信が行える手軽さのため、一般ユーザーの日常に浸透してきている。だが改札やコンビニ決済時でも、ICチップ搭載カードやスマートフォンをカバンやポケットから取り出してタッチしなければならない手間がある。
今回はこのNFC技術を衣服に搭載し、スマートフォンやICチップ搭載カードなどを取り出さずに衣服を介してタッチすることで通信するアプローチを提案する。具体的には、衣服のポケットに入れたスマートフォンから導電性回路(伝送路)を介して先端のコイルへとつなげる方法で、服のさまざまな場所での近距離無線通信を可能にする。
導電性回路には銅板を使い、布地に熱で転写して統合する。タッチしたい先端には銅板で構築したコイルを配置する。実験用プロトタイプでは、iPhone 11背面のNFCリーダーを利用することを想定し、ジャケットのポケット内にiPhoneと接触するコイル、外部のNFCに近づけるコイル2つ(左の袖と右の肘の位置)を整備した。これらのコイルは導電性回路を通じてポケット内のiPhoneとやりとりを行う。
このプロトタイプを用いた活用事例として、両手に荷物を持った状態で扉の取っ手に肘を近づけロックを解除する、2人が改造したジャケットを着て、互いに肘を引っ付けてデータ通信を行うなどが紹介される。
プロトタイプの伝送路を伸縮性の高い素材で改良したバージョンでは、筋トレやストレッチをする際に手足がしっかり動いているかの確認用や回数チェックに使用するデモも紹介され、日常でも着こなせる柔軟性を実証した。
動画はこちら
Source and Image Credits: Huizhong Ye, Chi-Jung Lee, Te-Yen Wu, Xing-Dong Yang, Bing-Yu Chen, and Rong-Hao Liang. 2022. Body-Centric NFC: Body-Centric Interaction with NFC Devices Through Near-Field Enabled Clothing
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