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「テレワークは生産性を下げる」は妄想か? 社員を監視したいリーダー層にMicrosoftが警鐘ウィズコロナ時代のテクノロジー(2/3 ページ)

» 2022年10月05日 08時00分 公開
[小林啓倫ITmedia]

監視の果てに待つのは、社員の「生産性劇場」

 こうしたパラノイアに取りつかれたリーダーが行いがちなこと、それはもちろん、テレワーク中で離れた場所にいる従業員の監視である。以前もこの連載で紹介したが、Webメディアを運営する米Plansponsorが米国で2021年9月に行ったアンケート調査によれば、テレワークで働く従業員を抱える企業のうち、60%で何らかの従業員監視ツールが導入されていた。

 そして導入の理由としては、従業員がどのように就労時間を過ごしているかを把握する(79%)、従業員が決められた就労時間いっぱい働いていることを確認する(65%)などとなっており、「サボっていないか」をチェックするのが最大の目的となっている。

米Plansponsorの記事から引用

 しかしこうした監視行為は、逆に生産性を阻害するものになり得るとMicrosoftは主張している。

 現在普及している監視テクノロジーの多くが、従業員が行った活動の成果ではなく、活動そのものに関するデータを収集している。例えば従業員が提案書を作成しているとしよう。このタスクの生産性を測るため要素として、「提案書を作成するソフトウェアを操作していた時間」や、「提案書の説得力」などが考えられる。

 しかし前者(活動そのもの)はデジタルデータとして収集しやすいのに対して、後者(活動の成果)は数値に変換しづらい。そのため多くの企業が、前者に関する監視ツールを採用している。

 実際にPlansponsorの調査によれば、Web閲覧やアプリケーション使用の履歴を取るソフトウェア(アンケートに回答した企業の76%が導入)、従業員が使うPCのスクリーンショットをランダムに撮影するソフトウェア(同60%)、キーロガー(同44%)などが一般的に見られるツールとなっている。

 しかしこのように活動に注目した監視を行っていると、従業員はなぜ自分がトラッキングされているのかという背景が理解できず、会社に対する信頼感を失い、「生産性劇場」へと走ってしまうとMicrosoftは指摘する。

 生産性劇場とは、従業員が自分の生産性を高く見せるために、まるで劇場の舞台に立っているかのように見せかけのパフォーマンスを行うようになる状態を指す表現だ。例えばいま、テレワークをしている従業員がいて、Web会議に参加している時間が生産性を測る指標の一つとなっているとしよう。

 参加している会議が本当に必要なものなのか、あるいは会議内で議論をリードするような発言を行ったかといった品質面に関するチェックが行われなければ、この従業員は次第に、会議の本数を意味なく増やすようになるだろう。あるいは会議を短時間で終わらせないために、皆の意見をまとめるという姿勢を怠るようになるかもしれない。これが「生産性劇場」である。

 生産性劇場で行われるパフォーマンスは、あくまでも生産性を高めるように「見える」行為であるために、それが行き過ぎると逆に生産性を阻害してしまう可能性が高い。Microsoftはこの可能性を危惧しているのである。

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