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ドローンが飛びながら建物を3Dプリント 英ICLなどが発表 将来は高層ビルの造形もInnovative Tech

» 2022年10月05日 08時00分 公開
[山下裕毅ITmedia]

Innovative Tech:

このコーナーでは、テクノロジーの最新研究を紹介するWebメディア「Seamless」を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。

 英Imperial College London、英Imperial College London、英University of Bath、ドイツのTechnical University of Munich、米University of Pennsylvania、スイスのEMPAによる研究チームが発表した論文「Aerial additive manufacturing with multiple autonomous robots」は、ドローンを用いて3Dプリントを実行するシステムを提案した研究報告だ。自律飛行しながら素材を押し出し、積み重ねるように造形していく。

3Dプリンタのように造形しているドローン

 建設業界では、3Dプリント技術を用いて建物そのものや建物の材料を造形するようになってきた。しかし建造物を造形する場合、パーツ事に印刷し組み立てるか、建物そのものを印刷しなければならないため、大規模な3Dプリンタを必要とする。

 これは3Dプリンタの性質上、素材を下から積み重ねて立体に仕上げる方法なため、建物が大きくなればなるほど必然的に3Dプリンタもそれ以上に高くなければならない。

 この課題に対して研究者らは、ミツバチやスズメバチなどが飛びながら複数匹で巣を作る、自然界の建築法にヒントを得たアイデアを提案する。ハチをドローンに見立て、空中で飛行しながら造形するアプローチだ。ドローンの底から素材を押し出しながら積み上げていく。

 ドローンは有意に高く飛べるため、これまで必要であった大規模な3Dプリンタを必要とせず、大きいサイズの造形物を作れるのが最大の利点である。しかも複数台のドローンが協調し合い造形すれば、印刷速度も上がる。

 システムは、「BuilDrones」と「ScanDrones」の2台のドローンで構成される。前者は空中から素材を押し出し積み上げていくドローンで、後者は積み上げた造形物を都度チェックする品質管理ドローンだ。

(右)飛行中に素材を押し出し造形するBuilDrones、(左)品質管理を連続的に行うScanDrones

 基本的にはソフトウェアで自律飛行による印刷を行うが、途中で微妙にズレてきたりした誤差を補正するために、品質管理ドローンが連続的に監視して次の製造ステッププランを調整する。

 このアプローチを検証するため、研究者たちはドローンが使用する4種類の特注のセメント混合物を開発した。製作中、ドローンは印刷された形状をリアルタイムで評価し、5mmの製造精度で、製作仕様を満たすように挙動を修正した。

 実験では、ポリウレタン系発泡材を用いた高さ2.05mの円筒(72層)と、カスタムデザインの構造用セメント系材料を用いた高さ18cmの円筒(28層)の造形に成功し、この手法の有効性を示した。

ポリウレタン系発泡材を用いた高さ2.05mの円筒

 この手法は、ドローンさえ行ける場所や高さであれば、高さや幅の制限がないため、高層ビルやアクセスが困難な場所での建築物などを理論上は造形できることになる。また高層部分の修繕にも適しており、高い場所に対して足場を組まずに修繕できる未来も考えられるだろう。

Source and Image Credits: Zhang, K., Chermprayong, P., Xiao, F. et al. Aerial additive manufacturing with multiple autonomous robots. Nature 609, 709-717 (2022). https://doi.org/10.1038/s41586-022-04988-4



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