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「バブルの終焉!?」市場が動揺したテンセントNFT取引所の閉鎖<中国NFTマーケット事情・後編>浦上早苗の中国式ニューエコノミー(5/5 ページ)

» 2022年10月17日 07時00分 公開
[浦上早苗ITmedia]
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業界標準制定の動き

 中国のNFTが資産性のないデジタルアートの位置づけとはいえ、発行する側にとっては、話題づくり、ファン獲得、さらに収入源として大きな魅力がある。特にコロナ禍で苦境にあるエンタメ・観光産業では、NFTが貴重な収入源になっている。

 現在は玉石混交の「石」が圧倒的に多いもの、NFTはメタバースの重要な要素であり、だからこそ業界団体や大手企業は自主的に市場ルールを整備し、政府と協調して産業の健全な発展を進めようともしている。

 9月4日、中国で開かれたメタバース・デジタルエコノミーフォーラムでは業界標準に相当する「NFTルール評価准則」が公表され、NFTの定義、合法的な発行・譲渡のルールが明確にされた。

 同標準は中国で発行されるNFTを「発行数が限られたデジタル形式の画像、音楽、動画、3D模型」「ブロックチェーン技術を通じて発行、購入、使用の流れが記録され、複製・改ざん不可能で永久に保存されるバーチャル文化プロダクト」と定義。法的には「デジタル出版物の一種の新しい形態」としてデジタル著作権、デジタル出版物の枠組みで解釈されるとした。

 中国通信工業協会ブロックチェーン専業委員会も9月6日に「デジタルコレクション一般標準1.0」を公表し、中国のNFTの技術的定義、略語、原則などを定めた。同標準では、NFTマーケットプレイスの運営事業者はハードウェア、サーバ、データーセンター、クラウドなどを中国本土に設置することを求め、NFTのサイズ、著作権などの詳細も規定している。

 中国メディアによると21年にNFT関連スタートアップ10社、22年には現時点で13社が資金調達を発表し、その数は増えている。しかし、調達案件のほとんどが数千万円〜数億円規模のエンジェル投資であり、最大手のテンセントはNFTへの投資をいったん停止。これらを併せて考えると、中国のNFT市場がどこに向かうか不透明な中で、「どうとでも動けるように有望技術やスタートアップはフォローしておきたい」というのが、今のIT業界のスタンスなのだろう。

筆者:浦上 早苗

早稲田大学政治経済学部卒。西日本新聞社を経て、中国・大連に国費博士留学および少数民族向けの大学で講師。2016年夏以降東京で、執筆、翻訳、教育などを行う。法政大学MBA兼任講師(コミュニケーション・マネジメント)。帰国して日本語教師と通訳案内士の資格も取得。
最新刊は、「新型コロナ VS 中国14億人」(小学館新書)。twitter:sanadi37

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