このコーナーでは、テクノロジーの最新研究を紹介するWebメディア「Seamless」を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。
中国のNorthwest University、米University at Buffalo SUNY、米University of Massachusetts Amherstによる研究チームが発表した論文「SmartLens : Sensing Eye Activities Using Zero-power Contact Lens」は、視線や瞬きを検出できる電池不要のコンタクトレンズを提案した研究報告だ。RF信号を用いて電力供給を行い、眼球運動の追跡を行う。
これまでにも眼球を追跡する手法は数多く提案されてきた。中でもカメラで目を捉える方法は主流だろう。だが、照明の変化によりトラッキングの精度は低下し、プライバシーに関する懸念も生じる。EOG(眼電位)センサーを内蔵したヘッドセットやメガネで視線追跡を行う手法も提案されているが、嵩張るハードウェアを装着しなければならないデメリットがある。
コンタクトレンズは人間の目を直接覆っているため、瞬きや眼球の回転など目に関連する動作は、後方散乱信号(来た方向へ反射する信号)に大きな影響を及ぼす。この後方散乱信号の変動を分析することで、瞬きや眼球の動きが検知できないかと研究者らは考えた。
今回は、低コストで電池不要のUHF帯RF信号を用いた眼球運動センシングシステム「SmartLens」を提案する。SmartLensは、コンタクトレンズ内に埋め込まれたRFタグをリーダーで読み取ることでその変調された後方散乱信号から視線や瞬きを検出する。また、タグはRF信号からエネルギーを採取して電力を供給する。
問題なのは干渉だったという。頭の動き、手の動き、ジャンプなど、後方散乱信号に変化をもたらす干渉源は、かなりの数に上る。干渉の影響を軽減するために、今回は参照用の基準タグを頭部に取り付けることを提案している。
基準タグとコンタクトレンズ内のタグは、人間が動いていても互いに静止しているため、基準タグとレンズ内のタグから収集した信号の差分の変動を利用して、目の動きを正確にセンシングする。
SmartLensは、RF信号を利用して目の活動を感知するため、照明の状態に影響されない。他の接触型方式と比較しても、コンタクトレンズを装着するだけでよく、EOGセンサーを内蔵したヘッドセットやメガネよりもはるかに軽量であるため、より優れた体験を提供する。
プロトタイプでは、導電層をレーザー彫刻してアンテナを作製し、アンテナとチップを接続した後、コンタクトレンズの材料として広く使われているポリジメチルシロキサン(PDMS)にタグ全体を埋め込んで試作した。
市販のR420リーダーをトランシーバーとして使用し、さまざまな使用シナリオでSmartLensの性能を評価した。その結果、タグとリーダーの距離が1.4mの場合、基本的な目の動きと瞬きの検出精度は平均89.63%と82%であった。
Source and Image Credits: Liyao Li, Yaxiong Xie, Jie Xiong, Ziyu Hou, Yingchun Zhang, Qing We, Fuwei Wang, Dingyi Fang, and Xiaojiang Chen. 2022. SmartLens: sensing eye activities using zero-power contact lens. In Proceedings of the 28th Annual International Conference on Mobile Computing And Networking (MobiCom ’22). Association for Computing Machinery, New York, NY, USA, 473-486. https://doi.org/10.1145/3495243.3560532
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