このコーナーでは、テクノロジーの最新研究を紹介するWebメディア「Seamless」を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。
スコットランドのHeriot-Watt University、フランスのUniversity Paul Sabatier、英University of Sussexによる研究チームが発表した論文「Selective neutralisation and deterring of cockroaches with laser automated by machine vision」は、ゴキブリを自動的に射殺できるデバイスを提案した研究報告だ。カメラでゴキブリを捉え、その位置にレーザー光を照射して殺傷する。
ゴキブリを殺すための製品は数多く発売されているが、今回は殺虫剤や毒餌ではなく、レーザーによる照射で無効化する方法を提案する。
システムは、機械学習ソフトウェアが動作する小型電子機器Jetson Nano、カメラ2台、ガルバノスキャナーシステム、設定可能なレーザーで構成する。
駆除する一連の流れは次のようになる。まずゴキブリがカメラに映ると、物体検出のニューラルネットワークモデルがリアルタイムに画像処理を行ってゴキブリの位置を特定する。データを受け取ったガルバノスキャナーシステムが2枚のミラー(反射鏡)を用いてレーザー光の方向を制御し、ゴキブリに照射する。
実験ではチャバネゴキブリ150匹を用意し、透明プラスチックボックスに入れた。600mmまたは1200mmの距離にレーザー装置を置いて、レーザーの出力も300mV(弱)と1600mW(強)の2種の威力を設定した。
結果、300mWのレーザーを照射したゴキブリは、1.6Wのレーザーを照射したゴキブリと比較して、移動速度が増加していることが確認できた。これは一般的に個体を無力化(殺傷)するためには、レーザーを約2~3秒間照射し続ける必要があり、この弱いレーザー出力では、ゴキブリが即死せずレーザー光の外に素早く移動したためである。反対にレーザー1.6Wは、レーザー300mWよりもゴキブリの無力化に有効であった。
次に、レーザーと透明ボックスの距離が遠いほど、レーザーがゴキブリを無力化するまでの時間が長くなることが分かった。レーザーからの距離が遠くなると、検知精度や発射精度も大きく低下することも確認できた。
ゴキブリは夜間に最も活発に活動し、昼間は物陰などの人目につかない場所で休息する。この特性から、低出力レーザーによってゴキブリが好みの暗い物陰に集合しないように調教し、システムがゴキブリをうまく抑止できるかどうかをテストした。結果は、レーザー光を当て続け8時間くらいたったくらいから、よく集まる物陰に近寄らなくなり、12時間後には完全に撤退して寄り付かなくなった。
設計図はオープンソースとしてGitHubで公開しているため、希望者は費用約250米ドルほどで装置を自作することができる。しかし研究チームは「家庭での使用は避けるべき」と警鐘を鳴らしている。レーザーが人の目に当たり続けると失明する可能性があるからだ。人がいない用途での使用を勧めている。
今回はゴキブリに焦点を当てたが、このシステムは容易に調整可能で、例えば、蚊やスズメバチなど、他の対象の追跡と制御に応用できるという。
Source and Image Credits: Ildar Rakhmatulin, Mathieu Lihoreau & Jose Pueyo (2022): Selective neutralisation and deterring of cockroaches with laser automated by machine vision, Oriental Insects, DOI: 10.1080/00305316.2022.2121777
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