ITmedia NEWS > 企業・業界動向 >

シリコンバレーのエンジニアが転職時に使う「表と裏のSNS」 働く社員の本音はどう探る?シリコンバレーから見た風景(2/2 ページ)

» 2022年11月11日 09時00分 公開
[五島正浩ITmedia]
前のページへ 1|2       

LinkedInは表の顔

 以前に勤務先のHRの採用担当者がLinkedInのトレーニングを開いてくれたことがありました。エンジニアを採用するプロセスにおいてLinkedInの情報が重要な役割を担っているので、プロファイルや投稿・シェアする内容にはプロフェッショナルとして高い意識を持って欲しい、という趣旨でした。

 募集しているポジションに興味を持った人は、まずその会社をLinkedInで調べ、さらにキーワード検索で関連するチームのエンジニアがどんな人かチェックすることが多いそうです。このため実際のインタビューが始まる前に、LinkedInのプロファイルやタイムラインの情報で会社の第一印象が決まってしまうとのこと。

 いつ誰に見られてもいいようにプロファイルはアップデートしておくこと、会社の活動に興味を持ってもらえるように公式アカウントの投稿をタイムラインにシェアすることが効果的だと勧められました。これは優秀なチームメンバを獲得するためだけではなくて、次の自分の転職にも役立つことだよといわれて、全くその通りだと納得。シリコンバレーで働くエンジニアにとってLinkedInでプロフェッショナルとしての自分をどう見せるかはとても重要なことなのです。

裏の顔はBlind

 次に紹介するのはモバイルアプリBlindです。LinkedInが実名のSNSだったのに対して、Blindは匿名のプロフェッショナル向けコミュニティーを提供するサービスです。匿名ですが会社のメールアドレスで登録する必要があります。これにより同じ会社に所属する人しかアクセスできないコミュニティーに入ることができ、社員間の情報交換ができるようになっています。また会社を超えた広いコミュニティーで議論することも可能です。

 同僚に勧められたのをきっかけに使い始めたのですが、LinkedInでは到底知ることができない社内の生々しい情報が多くあってびっくり。コロナ禍でリモートワークが始まってからは、社員同士のコミュニケーションが激減したためBlindの情報は参考になりました。

 内容はさまざまで勤務先の企業文化、福利厚生、ビザ、株など一般的なものもありますが、エンジニアとしてのキャリアアップに関する話題が目立ちます。例えば、ソフトウェアエンジニアとしてジョブレベルを1ランク昇格すると報酬やチームでの役割はどう変わるのか? 競合他社からオファーをもらったけどこの報酬額は妥当だと思うか? 社内で別のポジションに転職する時には昇格や報酬の交渉は可能か? などなど表では聞きにくい話が多いです。

 これ以外にも会社でAll handsと呼ばれる全社員ミーティングが行われた後や、大きなアナウンスや組織変更があったりするとザワザワしたり。匿名であるがゆえ好き勝手なことを発言している人もいて、うわさ話やネガティブな投稿も多く、こういうのを読んでしまうと暗い気分になるのが欠点です。

 Blindを好ましく思わない会社もあるようです。2019年には米Teslaが会社の情報のリークがあるとして会社のメールアドレスでBlindに登録できないようにしたことがニュースになりました。

Blind appのタイムラインの様子。アンケート機能もある

BlindのライバルFishbowl

 最近Facebookの広告で知ったのがFishbowlというアプリです。こちらもBlindと同様に匿名のプロフェッショナル向けのコミュニティーサービスですが、カラフルなUIになっていてとても明るい印象です。またエンジニア以外にも多様な職種の人に広く使ってもらうことを想定しているとのこと。2021年9月に企業のレビューサイトの老舗であるGlassdoorに買収されました(ちなみにGlassdoorは2018年にリクルートに買収されています)。

 Fihshbowlとは丸いガラスの金魚鉢のことですが、ここではコミュニティーのグループのことを「ボウル」(Bowl)と呼んでいます。既存のボウルに参加することもできますし、自分で新たなボウルを作ることもできます。ボウルを通じて同じ会社だけでなく、同じ業種の人や同じ興味を持つ人とのコミュニケーションを活性化させ、みんなでキャリアップにつなげようとするポジティブな感じが伝わってきます。

 会社のメールアドレスもしくはLinkedInのアカウントを使って登録するのですが、発言する時の匿名の考え方に幅があるのが特徴です。実名を伏せて例えば「Appleの人」とか「ソフトウェアエンジニアの人」として会社名やタイトル(肩書)を使って発言するようになっています。完全な匿名よりも立ち位置が多少明らかになるので、発言の背景が理解しやすくなるのでしょう。また匿名でなく実名での発言も選べるそうです。

 Fishbowl Liveという名前のClubhouse的な機能も実装されており、音声を使った講演会とかディスカッションなどができるのも興味深いです。まだBlindに比べてユーザー数が少ないようですが、今後の展開がとても楽しみです。

Fishbowlアプリの様子。カラフルで楽しい印象

 今回はシリコンバレーエンジニアがキャリアップのために使うプロフェッショナル向けSNSを紹介しました。シリコンバレーは世界中から優秀なエンジニアが集まるだけでなく、集まった優秀なエンジニア達がよりランクの高いエンジニアになって高い報酬を得ようと競い合っている場所です。こうした高いモチベーションが革新的なプロダクトやサービスを生み出すシリコンバレーのパワーにつながっています。リモートやハイブリッドなど新たなワークスタイルが広がる中でプロフェッショナル向けSNSの重要度は高まっています。

前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.