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いまだ「紙とExcel」な奨学金にDXを ベンチャー企業「ガクシー」が目指す「あきらめなくていい社会」(3/4 ページ)

» 2022年11月17日 17時00分 公開
[岡田有花ITmedia]

「紙とExcel」の学生管理でミス多発 DXへ

 奨学金を提供する財団など向けには、管理・運営を効率化するSaaSプラットフォーム「ガクシーAgent」を提供している。学生は「ガクシー」から奨学金を申し込むことができ、財団や篤志家は、募集から選考、面接、学生管理、支給までワンストップで管理できる。

 「奨学金はいまだに、紙とExcelベースの管理が大半」という驚くべき事実が、ガクシーAgent開発の背景にある。

画像 ガクシーAgent

 奨学金の申し込みは、紙の書類に記入して郵送するのが主流。郵送に不慣れなオンライン時代の学生たちにはハードルが高い。財団側も、郵送で届いた数百人分の書類を管理し、Excelに入力していく……といった地道な作業が必要で、ミスが増える要因にもなっていた。

 実際、人的ミスは多いという。奨学金の合否通知を間違え、不合格の学生に合格通知を送ったり、学生の返済が5年間滞っていることに気づかなかったり……。アナログな管理では、こうした大きなミスは「よくある」ケースで、松原さんも驚いたそうだ。

 DX化により手作業を大幅に軽減する「ガクシーAgent」は好評で、既に、笹川平和財団など著名な財団を含む、20〜30ほどの財団や学校が利用しているという。

「今後10〜20年、奨学金市場は拡大する」

 「奨学金の総量を増やしたい」。松原代表は言う。

 日本の高等教育費用のうち、奨学金でカバーできているのはわずか8%。公的支援とあわせ、これを100%に近づけていくことが、「学生がお金の心配をしなくていい」社会につながる。

 市場拡大に向けて「ガクシー」が目指すのは、「リクナビ」のようなサービスだ。

 「リクルートが『リクナビ』を作ったことで、新卒採用が紙ベースからオンライン化され、新卒採用市場が一気に広がった。奨学金もプラットフォームを整え、流通しやすい世界になれば、市場が拡大していくと思う。それをやり続けたい」

 奨学金マーケットは「今後10〜20年は拡大する」と展望する。日本人の平均給与が下がる中、高等教育の費用は上がっており、間を埋める奨学金のニーズは高まる

 メルカリ創業者の山田進太郎さんが理系の女子を支援するなど、成功した起業家が奨学金を創設する動きも出てきている。また、ネットを通じた寄付や「ふるさと納税」などを通じ、寄付に慣れてきている人も多く、市場の未来は明るいとみる。

 ただ、奨学金ビジネスに絶対の自信があるわけではない。「われわれなりのビジネスモデルはある。手間がかかっていることを効率化し、ペイン(痛み)を解決できれば、事業は成り立つと思っているが、奨学金の“重い”世界は本当に変わるのか。可能性を一番知りたいのはわれわれなんです」

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