マネーフォワード社は、家計簿アプリからスタートし、その後企業向けの会計ソフトに進出した企業である。「お金をもっと前へ。人生をもっと前へ。」というミッションにもあるように、お金に関わるさまざまなビジネスを展開している。
祖業である家計簿アプリ「マネーフォワード ME」も好調で、1200万人を超える利用者がいる。そんなマネーフォワード社が会計ソフトに進出したのは、個人事業主からの「確定申告ソフトを作ってほしい」というニーズに応えるためだった。
会計のデジタル化は比較的早かったとはいえ、会計ソフトはあくまでも経理や税理士などの専門家が使用するツールだった。アドビのイラストレーターを使いこなすためには機能の理解に加えて、デザインの基礎やスキルが必要なのと同じで、会計ソフトを使いこなすためには複式簿記の知識や経理処理全般の理解が不可欠である。専門家向けのソフトの常ではあるが、当時のUIも正直使いやすいとはいえなかった。
Webの発展によってITスキルで稼ぐ個人事業主が増え、専門家の世界の閉じていた会計ソフトが個人にも解放され、より使いやすく分かりやすいUIが求められるようになってきたのは必然だろう。すでに優れたUIの家計簿アプリを提供していたマネーフォワード社に対して、「もっと使いやすい会計ソフトを作ってほしい」という要望が上がってくるのも理解できる。
そのような経緯で始まったMFクラウドであるが、今では個人事業主だけでなく中小企業にも利用されるようになった。MFクラウドシリーズ(会計ソフトに加えて、請求書、給与計算、勤怠などのビジネス向けソフトウェアシリーズ)が売上規模では祖業の家計簿アプリを遙かに凌ぐまでに成長している。
1つ目の特徴は、家計簿アプリでつちかったアカウントアグリゲーション(異なる金融機関の複数の口座の情報を、単一のコンピュータスクリーンに集約して表示するサービス)の技術である。2000年代には銀行や保険会社などがサービスの一環として提供していたが、新しい連携先を追加したり、連携先の変更に対応したりするメンテナンスコストが見合わずに、ほとんどのサービスが数年で閉鎖されてしまった。
そんな中、マネーフォワードMEは家計簿への記録の手間を削減すべく、膨大な手間とコストをかけて、銀行やクレジットカード、ECサイトなどの連携サービスを着実に増やしていった。今になってようやく銀行APIの解放などが真剣に議論されるようになってきたが、当時はまだAPIという概念すらも一般には浸透していない時代である。
同社社長の辻庸介氏の著書では、アプリから銀行へのアクセスが多すぎて接続を止められたなどというエピソードも出てくるが、困難を乗り越えながら、ユーザー数を着実に増やしていった。マネーフォワードMEの技術を活用して開発したMFクラウドは、リリース当初から銀行やクレジットカードとの連携の豊富さをウリにしている。
個人事業主や中小企業にとって、会計ソフトを活用する上での大きなハードルが入力作業である。事業活動においては請求書や領収書に加えて、銀行やクレジットカードの明細などのさまざまな証憑(しょうひょう)が発生するが、まずはそれらを会計ソフトに入力しなければいけない。大量の書類の山を目の前にして、1つ1つ入力していく作業は会計の専門家ではない人々にとっては苦痛以外の何者でもない。それを圧倒的に楽にしてくれるのが、アカウントアグリゲーションである。
銀行やクレジットカードもデジタル化は早く、Web上で明細を見ることは2000年代から当たり前にできていた。しかし、その内容を会計ソフトに入力するためには、銀行の通帳やクレジットカードの利用明細を見ながら一行ずつ手打ちするしかなかったのである。私も会計事務所で働いていた際は、数百行の通帳のコピーに一行ずつ物差しを当てながら入力をしていたので、MFクラウドを初めて見た時に本当に感動したことを覚えている。
MFクラウド以前にも銀行やクレジットカードの明細を会計ソフトに取り込めるサービスはあるにはあったが、利用料金が追加でかかったり、使い勝手が良くなかったりして、一般的ではなかった。そこの市場に家計簿アプリでつちかった技術とデザインで、新しいクラウド会計ソフトを作ったのがMFクラウドである。
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