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「消える魔球」「曲がる魔球」が打てるエアホッケー 東工大などが技術開発Innovative Tech

» 2022年12月14日 08時00分 公開
[山下裕毅ITmedia]

Innovative Tech:

このコーナーでは、テクノロジーの最新研究を紹介するWebメディア「Seamless」を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。

 東京工業大学、NTTコミュニケーション科学基礎研究所、京都大学に所属する研究者らが発表した論文「E.S.P.: Extra-Sensory Puck in Air Hockey using the Projection-Based Illusion」は、エアホッケーのパックを「消える魔球」のように意図的に見えなくする手法や、運動方向を「曲がる魔球」のように操作する手法を提案した研究報告だ。

 打って高速に動くパックに追従した錯覚パターンを遅れなく投影することで、物理法則を無視したさまざまな状況を相手プレイヤーに知覚させる。

打って高速に動くパックを見えない状態(消える魔球)にできる
打ったパックの運動方向を操作できる(曲がる魔球)

 このシステムでは、高速プロジェクターと高速カメラをそれぞれ1台使用し、赤外画像を用いたパックの追跡を行う。高速プロジェクターには、1000fps以上で8bit階調投影が可能なもの(解像度1024×768)を使用する。高速カメラには、525fpsでモノクロ撮影可能なもの(解像度720×540)に可視光カットフィルターを装着したものを用いる。

 高速プロジェクターと高速カメラは、ホッケーテーブルを上から下に向かって投影や撮影できるように上層部に固定する。追跡の対象となるパックには再帰性反射材マーカーを取り付ける。

 またシステム遅延により投影画像と対象物体の間にズレが生じる問題を避けるため、対象が数フレームの間等速運動することを仮定した物理モデルと位置・速度からカルマンフィルターを用いて予測を行う。

実験時のセットアップ

 このセットアップにより、打って高速に動くパックを追従しながら貼り付いたかのように投影し続けることが可能になる。今回は、この技術を用いて「消える魔球」と「曲がる魔球」を作り出す。

 まず「消える魔球」の手法では、ストライプパターンの黒部分がパックに追従するように投影する。これによって、パックに光が当たらない状態を維持する。また、ストライプパターンの白部分は背景のテーブルを照らす。このとき、黒と白を交互に投影することで生じる輝度変化のフリッカーは、パターンが高速に移動することで知覚されない。以上により、ホッケーテーブルからパックだけが消えたような効果を再現できる。

パックに追従するストライプパターンを投影する

 実際にパックを打ち、高速に動くパックを不可視化できるかを検証した結果、相手プレイヤーがパックの位置を特定できない状態であることを確認できた

(上)通常の状態。パックが知覚できる、(下)パックが知覚できない上、テーブルは正常に見えている

 次に「曲がる魔球」に向けて、パックの運動方向や速度に対する知覚を操作する手法を提案した。これはパックを追従しながら、動く縞模様をパックのみに投影するものである。

 実験の結果、パックの運動方向と垂直に動く縞模様を投影した場合、その運動方向が変化しているように知覚すると確認できた。また、平行に動く縞模様の場合、運動速度が変化しているように知覚した。

(上)通常、(中)運動方向と垂直に動く縞模様を投影した状態、(下)運動方向に平行に動く縞模様を投影した状態

Source and Image Credits: Kengo Sato, Hiroki Terashima, Shin’ya Nishida, and Yoshihiro Watanabe. 2022. E.S.P.: Extra-Sensory Puck in Air Hockey using the Projection-Based Illusion. In SIGGRAPH Asia 2022 Emerging Technologies (SA ’22 Emerging Technologies). Association for Computing Machinery, New York, NY, USA, Article 3, 1-2. https://doi.org/10.1145/3550471.3558397



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